2009-01-01から1年間の記事一覧

亀田大毅敗戦

今夜のボクシング世界タイトルマッチ。私がリングに目撃したのは、挑戦者亀田大毅の背中に見たのは、無残な哀しみでした。亀田家の物語という虚構の中で、三兄弟の次男という役回りを与えられ、計算ずくで接してくる大人たちに“消費材”として扱われる少年。…

私の好きな作家:森瑤子

あらゆる法則には例外がある、という法則。恋愛小説を、そうと意識して手に取ることのない私ですが、その唯一の例外が森瑤子です。本人が「恋愛中ではなく、別れる時にこそ、ヒトの本当の姿とドラマがある」と言うように、その作品のほとんどが別れ話を題材…

二人の美女

モンキー・パンチが描く(漫画の)『ルパン三世』の峰不二子。美しいだけでなく、時にはルパンも顔負けの知性と悪戯心が魅力的です。映画『羊たちの沈黙』のジョディ・フォスター。野暮ったい田舎娘が、レクター博士と出会い、洗練された美しさを身にまとっ…

映画『ウォール街』

金融危機が発生する前。 安価な労働力をアジアに求めた結果、産業の空洞化を来たしつつある状況を憂いて、何人もの経済評論家からこのような意見が出されました。“日本は投資立国を目指すべきだ”この言葉を聞いた時、映画『ウォール街』を思い出しました。オ…

縄跳び

BOX

ボクシングジムでは、まず準備体操をし、次に縄跳びをします。この縄跳び、侮ってはいけません。慣れた人は片足で交互に二回ずつ、リズムよく跳びます。もちろん私も現在はそのように跳んでいますが、通い始めた当初はそうはいきませんでした。慣れ以前に、…

私の好きな作家:氷室冴子

故氷室冴子と書かなければならないことがとても悔しく、残念です。 読み始めたきっかけはスタジオジブリが制作したテレビアニメの『海がきこえる』を観たことでした。すぐに単行本を買いに走りました。この高知を舞台にした高校生の物語は、読者をはらはらど…

中身は子ども

「現知事として謝りたい」とは何たる言い草か。昨日の森田健作千葉県知事の発言には呆れ果てて言葉も出ませんでした。“現”知事という言い方に見え隠れするのは、一連の不正経理は自分とは無関係な時と場所で起こったものであり、私は悪くないが、立場上謝罪…

私の好きな作家:三島由紀夫

三島由紀夫は自ら命を絶つに到る物語の印象が強く、作品を語る際にもその軛から逃れることができません。それを承知のうえで、私が最も好きな作品として挙げるのは『仮面の告白』でも『金閣寺』でも『憂国』でもなく、『春の雪』です。美しい日本語で紡がれ…

魔法の言葉

“自分で決めたこと”他人の目を誤魔化すことはできるかもしれませんが、他の誰でもない、自分自身が見ています、知っています。自分に嘘はつけません。その苦しみの先に何が見えるのか? さあ、もういっちょう、行こうか。

既視感

僅か数年前に見た風景。 旧弊を唾棄し、“何か”新しいことをしてくれそうだという“感覚”が引き起こした地滑り的圧勝。浮ついた興奮。そして異常に高い支持率。 そう、小泉純一郎が政局の最前線に躍り出てきた時、私たちはこの風景を見ました。テレビドラマの…

裁判員制度

多くの問題を孕みつつ始まった裁判員制度。報道は、施行されてしまえば“始まったものはしようがない”と言わんばかり、“より良いものにすべく頑張ろう”という、大変ご立派な態度一色です。書店でも裁判員制度を滞りなく推し進めるための書籍が平積みにされて…

たった一人のヒト

私にはたった一人、「腕一本をくれ」と言われたら、何故と訊かずに黙って自分の腕を差し出せるヒトがいます。そう言えるのはどうしてか。 それは、そのヒトが決してそう言ってこないとわかっているからです。私の腕という犠牲の上に我が身の安全を得るくらい…

行動原理

“世間”とは何でしょうか? 世間に迷惑をかけたことをお詫びする。世間を騒がせたことを反省している。それは誰に対しての言葉なのでしょうか。不特定多数を想定することは、逆に誰にも目を向けていないことなのではないでしょうか。村上春樹の『ノルウェイの…

『太陽を曳く馬』

ジャーナリストの立花隆は著書の『同時代を撃つⅠ 情報ウォッチング』(講談社文庫)の中で、若者の活字離れについて書いています。 ある銀行が新入社員に「あなたは文字志向か、映像志向か」と訊いたところ、八割が「自分は映像志向である」と答えたそうです…

ircle

素敵な縁があって、ircleというバンドのCD、『未来』と『TINA』を手にしました。「青春時代の真ん中は、道に迷っているばかり」と書いたのは、作詞家の阿久悠でした。自身の二十歳の頃を振り返ると、世界は陰影の無い灰色でした。彼らはおそらく知っています…

大人と子ども

「あなたの生きがいは?」と訊かれて、「子どもの成長です」と答えるすべての親に訊きたいことがあります。それは“愛”ではなく“依存”ではないのですか?ここ数年、ずっと考えていて答えが出ません。

胸締め付けられるCM

近所でお祭りがありました。 半被や浴衣を着た小さな男の子と女の子。歩く姿も飛び跳ねるようで、きらきらと輝いた顔から、ただただ現在(いま)に没頭し楽しんでいる喜びが伝わってきました。 華やかな浴衣やそれぞれの衣装で着飾った十代の男女。ちょっと…

ワンマン・アーミー 続:大藪春彦

私は独りだ。それを受け入れよう。 あなたは独りだ。そこから始めよう。愛していると言う。そう感じているなら、それはあなたにとって真実だろう。しかし、あなたがそう考えているのと同じだけ、その相手は愛されていると感じているのだろうか。もし答えがイ…

節操が無い世の中

カテゴライズすることで事象を位置づけるという側面はあります。部屋の片付け、模様替えでしょうか。マーケティングといえば論理的に聞こえもしますが、要するに商売に結びつけるということです。それはわかりますが、それでも。“誰もが特別なオンリーワン”…

UWF

この三文字を目にすると、平常心でいられません。 この曲を耳にすると、居ても立ってもいられません。UWFを“運動体”と読んだのは夢枕獏でした。団体ができた経緯がどうであれ、UWFは理想を持った若者の行動でした。ある理想が、目の前で現在進行形で具現化さ…

芸術の価値

ビル・エモット。経済紙「エコノミスト」の編集長を務め、著書の『日はまた沈む』で日本のバブル経済の破綻を予言したとして有名です。数年前の著書『日はまた昇る』は日本経済の復興を予言したという、今考えると多分に願望を込めたキャッチフレーズがつい…

『文明の衝突』雑感

サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』が出版されたのは1998年、後に言われる“失われた十年”の真っ只中でした。有名な本ですので、ここでは特に内容には触れません。読んだきっかけは大多数の人と同じでしょう、価値観が錯綜して混沌とした世界を理解し…

読む劇薬・大藪春彦

大藪春彦の作品を読んで感想を書くことは意味が無い。何故か。そこに書かれていることがすべてだからだ。毒を以って毒を制す。悪魔に魅入られたかのような魂の浄化作用。それが大藪春彦を読むということだ。カーとガンとセックスを除いたら何も残らない。手…

チームワーク

日本人初の宇宙飛行士、秋山豊寛氏のエピソードとして、テレビ中継された際の宇宙からの最初のコメントが「これ、本番ですか」だったことが有名です。しかし私にとって最も印象深かったのは別の場面でした。候補者に選ばれて間もない時期、まだ専門の訓練も…

ボクシング

BOX

80年代後半だったと記憶しています。思想という程大げさなものではありませんが、ある考え方を耳にしました。発信元はアメリカ。ビジネスの世界において、肥満している者、飲酒癖のある者、喫煙の習慣がある者は評価されない。あるいはその対象にならない。…

茶番

自民党が揉めています。一連の醜態で、表面に浮かび上がってきたことがあります。自民党は、民主党を「寄り合い所帯」と批判していましたが、自分たちもまた同様であることを露呈しました。派閥という名の小さな政党の集合体。それが自民党です。彼らの最優…

あれから何年

あれから何年経ったのでしょう。あの忌まわしい小学校襲撃事件から。その時私がテレビ画面に見たのは、おぞましい光景でした。怒りという感情は通常は熱を持つものです。しかしその時私が感じた怒りは、冷たく冷えたものでした。年齢にかかわりなく、それで…

私的・船戸与一論 その九

羽海野チカの漫画「ハチミツとクローバー」にこのような台詞がある。 「子どもが子どもなのは、大人が何でもわかっていると思っているところだ。」作家が正しい世界観を持ち、いつでも真実を見通し、完成度の高い作品を著すと考えるのは、上の「大人が〜」と…

私的・船戸与一論 その八

イギリスの歴史家・思想家・政治家のジョン・アクトンの発したテーゼ。「権力は腐敗する。絶対的(専制的)権力は絶対に腐敗する。」この腐敗する権力が正史を司る。そして対抗勢力がその権力を打倒した時、自身もまた権力となって腐敗する。硬派はこの腐敗…

私的・船戸与一論 その七

『虹の谷の五月』で直木賞を受賞した際に読売新聞に寄せた文章を、一部抜粋。「これまで多くの辺境での開放闘争をテーマとして書いて来た。しかし、冷戦構造崩壊を機にみずからが造りだす作品世界に奇妙な齟齬感を抱きはじめたのは否めない。かつて、辺境で…