たった一人のヒト

私にはたった一人、「腕一本をくれ」と言われたら、何故と訊かずに黙って自分の腕を差し出せるヒトがいます。

そう言えるのはどうしてか。
それは、そのヒトが決してそう言ってこないとわかっているからです。私の腕という犠牲の上に我が身の安全を得るくらいなら、自分の腕を失くすことを選ぶヒトだとわかっているからです。そして何より、私自身がそのヒトに対してそう思っているからです。

この理論上成り立たない仮定は、逆に私にプレッシャーをかけてきます。私はそのヒトにとって、それに相応しい相手足りえているかと。