2018-01-01から1年間の記事一覧

血と業

旧約聖書の昔から親と子の相克は語られており、珍しいものではありません。それが形や語り口を変えながら続いているのは何故でしょうか。血は人の心を縛ります。理屈や損得勘定、物事の善悪を超えて動かします。そして、受け継がれて今に至るものとして人と…

『東京輪舞』

八甲田山の昔から、日本人の責任を取らない体質は指摘されています。それが最も顕著に表れたのが、第二次世界大戦の後、戦犯として公職を追放されていた人たちが、東西冷戦の深刻化と軌を一にして続々と復帰したことです。あのとき、たとえ法的に許されよう…

いつものこと

今年の冬も微々たる金額ですがボーナスが出ましたので、そこからさらに僅かながら、「あしなが東日本地震津波遺児基金」と「国境なき医師団日本」に寄付をしました。「感謝の気持ちは、それを相手に伝わるように表さなければ意味がない」なら、こうして報告…

受け継ぐ

森絵都の『みかづき』を読みました。学習塾を舞台にした親子三代の物語です。この物語の根底にあるのは“受け継ぐ”ことです。それは社会的立場や地位のことではありません。想いです。教育に対するものであれ、家族に向けたものであれ、その想いが人の心を揺…

新宿の夜

夏に続いて、今年二度目の新宿。紀伊国屋本店で五條瑛の新刊を購入し、地下のレストラン街でカレーを食べながら昼間からビール。その後、喫茶店のルノアールで蜂蜜ジュレのアイスティーを飲み時間調整。前回と同じルーティンです。そうして再会したのは、泰…

筋を通す

C.J.ボックスの、猟区管理官ジョー・ピケットを主人公としたシリーズの番外編、脇役のネイト・ロマノウスキを主役にした『鷹の王』を読みました。評論家の北上次郎はネイトを絶賛していますが、以前このブログで書いたように、わたしは違和感を抱いていまし…

完璧なる水晶

五條瑛の『パーフェクトクオーツ』を読みました。現実の東アジア情勢を下敷きにした“鉱物”シリーズの第三作です。この作品の前に発売された『スパイは楽園に戯れる』が、『パーフェクトクオーツ』が改題されたものとされていましたが、それは著者と出版社の…

二回目の誕生日

今日は平成30年11月22日。わたしは46歳になりました。ずっと、三島由紀夫と同じ45歳で死ぬことを意識して生きてきました。その呪縛から解放されました。これから生きていく中で、そう出来なかった悔恨や慚愧の念を抱くことはないでしょう。そう思える理由は…

『サヨナラコウシエン』

天久聖一の『サヨナラコウシエン』を読みました。物語は、おじいちゃんが孫のランドセルを買うところから始まります。そこで描写されるおじいちゃんは台詞もなく、その姿もモブキャラのように記号的です。そして、すぐに亡くなってしまいます。そのおじいち…

同時代を撃つ

五條瑛の『Blue Paradise in YOKOSUKA』を読みました。五條瑛の作品は、三人称の視点が厳格です。“鉱物”シリーズは基本的に主人公の葉山隆の視点で語られるので、相棒の坂下冬樹の姿も葉山の目を通して描かれます。今回は逆、坂下が主人公となり、彼の見る葉…

好漢

すべてが順調な人などいません。誰もが悩みや鬱屈を抱えながら日々を凌いでいます。わたしがネットで意見めいたことを書くのは、このブログとツイッターだけですが、そこで痛切に感じるのは、自分が何ら特別な知見を持ち合わせてはおらず、いつも教えられて…

知識と教養

Mr.childrenの「everybody goes-秩序のない現代にドロップキック-」の歌詞に「知識と教養と名刺を武器に~」とあるように、教養は知識とセットで語られます。そして、明確に区別されて。あくまでも、わたしの関心の範囲内のことですが、立花隆の『東大生は…

素人の遠吠え

茨城県近代美術館で開館30周年記念特別展として催されている、「ポーラ美術館コレクション モネ、ルノワールからピカソまで」に出かけて来ました。いつも書いているように、絵心の無さには自信があります。基礎的な知識もありません。その素人が絵画の鑑賞を…

歴史の齟齬

わたしは世代論が好きではありません。それは、相手と一人の人間として五分に向き合いたいからです。しかし、あえて世代をキーワードに書いてみます。ひとつ前の記事でも書いたように、船戸与一の『エドワルド・ファブレスの素描』はスペイン内戦を扱ってい…

まだまだ船戸与一

日本冒険作家クラブ編のアンソロジー『幻!』に収録されている、船戸与一の『エドワルド・ファブレスの素描』を読みました。スペイン内戦を取材する船戸与一の、“わたし”という一人称で語られる作品です。作品の中に、スペイン内戦当時の兵士の手記が船戸与…

弟よ

難しいことを難しくやるのは素人で、難しいことを簡単(そう)にやってみせるのが本物だと言います。山本美憂のタックルの話です。タックルを見て見事だ、あるいは美しい動きだと感じたのは宮田和幸のそれ以来です。今回の試合は、内容よりも結果。それはフ…

罪ほろぼし

北海道胆振東部地震への義援金を、地元の社会福祉協議会を通して送りました。これは、わたしにとっての罪ほろぼしです。東日本大震災が起きたとき、このブログに記事を書きました。わたしより生きるに値する人たちが亡くなって、何故わたしが生きているのか…

懐かしい再会

日本冒険作家クラブ編の短編集『血!』に収録されている、船戸与一の『ノロエステからの伝令』を読みました。未読の船戸作品を読むのは、遺作となった“満州国演義”シリーズの完結編『残夢の骸』と、その後に購入した雑誌「ジャーロ」に収録されている短編『…

辻褄合わせ

はてなダイアリーのサービス終了を受けて、はてなブログに移りました。さて、ブログ名は「rascal2009のブログ(旧名はrascal2009の日記)」ですが、ご覧になってわかるように、IDはocelot2009です。これは、ブログを始めるにあたって、「私的・船戸与一論」…

難しい現実認知

誉田哲也の『武士道ジェネレーション』を読みましたが、感想を書くにあたって困っています。作家の「これを言っておきたい」という動機によって小説が書かれても、それは構いません。その内容を肯定するにしろ否定するにしろ、それは読者の自由です。この物…

プロとは

好きなことを仕事にするのは諸刃の剣です。それが義務になり、負担になり、苦痛になって、せっかく好きだったことが嫌いになるかもしれません。では、仕事は仕事、生活の糧を得るための手段であり、労働時間を提供して対価をえているのだと割り切ったら精神…

嬉しいと寂しい

五條瑛の“鉱物”シリーズの短編集『Analyst in the box 1』を読みました。kindle限定で発売されていたものを書籍化したオンデマンド本です。まず、その試みの新しさに驚きました。そして、五條瑛ほどの筆力を持つ作家でも既存の媒体では活躍の場がないことに…

母は惜しみなく

シェイクスピアは『リア王』で書いています。「When we are born, we cry that we are come to this great stage of fools.」意訳すれば、赤ん坊が生まれてくるとき泣き喚いているのは、馬鹿げた世界に送り出されたことを嘆いているからということです。その…

努力と苦労

わたしは苦労をしてきた。この言葉には自己憐憫の響きがあります。若いときの苦労は買ってでもしろ。そんなことを言う人がいます。その経験が、将来、苦しい場面で役に立つからと。ご冗談を。どのような経験であれ、それを糧にして前に進む人は前に進み、そ…

『キミ金』

何事、壁にぶつかったときには基本に返るのが常道です。井上純一の『キミのお金はどこに消えるのか』は、経済に興味を持った人が手に取るのに最適な一冊です。まず何より、他の“漫画でわかる〜”と謳っている本との違いは、著者が読者に対してではなく、妻の…

『真説・佐山サトル』

漫画『ハチミツとクローバー』で、自分が何者であるのか、自分には何が出来るのか、自分というものがわからず苦しむ若者が、迷い彷徨う自分を見つめて、心の内で呟きます。「自分にないのは地図ではない。目的地だ」と。その裏返し。地図もない場所で、目的…

自負と謙虚

自分の周囲の人たちは、ただ毎日をやり過ごしているだけで、自分のように物事を(深く)考えていない……、などと思ったら大間違い。話さないからといって考えていないわけではなく、そこを見誤ってはいけません。ネットの普及とともに、掲示板、ブログ、フェ…

ボッシュ②

幼いころに、娼婦だった母親を殺人事件で失ったハリー・ボッシュ。その葛藤を克服しても、心の傷は決して消えはしません。ボッシュが物語に登場する女性たちとロマンスを繰り返すのは、そのことと無縁ではないはずです。しかし、シリーズが続くなかで年齢を…

ボッシュ①

物言わぬ死者の代弁者として犯人を追う刑事、ハリー・ボッシュ。物語の最後、官僚然とした上司は、ボッシュに、何故それほど頑張るのかと尋ねます。ずっとボッシュの物語を読み続けている読者なら、その答えは自ずと明らです。それは、彼がハリー・ボッシュ…

反骨の夏

さて、つまらない記事が続きましたので、それに対するカウンターの意味も込めて、各出版社の夏の文庫フェアの顰に倣い、個人的夏の読書のご案内を。今回は、あえて小説を取り上げず、ノンフィクションでいきます。辺見庸の『屈せざる者たち』は対談集です。…