懐かしい再会

日本冒険作家クラブ編の短編集『血!』に収録されている、船戸与一の『ノロエステからの伝令』を読みました。未読の船戸作品を読むのは、遺作となった“満州国演義”シリーズの完結編『残夢の骸』と、その後に購入した雑誌「ジャーロ」に収録されている短編『稲妻の秋』を読んで以来です。

ブラジルを舞台に根無し草の若者を語り手に物語る、『山猫の夏』の思い出させる一編です。

その若者は「バガブンド」と呼ばれています。フランス語のバガボンドは放浪者という意味ですが、こちらには定職につかずふらふらしている輩という侮蔑的な意味合いがあります。

わたしたちは一人では生きていけません。他人との関わり、その集合体としての社会を必要とします。その最上位に位置するのが国家です。

その社会の歴史と、そこで生きて来た人たちの尊厳。それらに想いが至ったとき、わたしたちは個人たり得るのではないでしょうか。組織の欺瞞性をその視界に捉えつつ。

『山猫の夏』の“おれ”と、『ノロエステからの伝令』のバガブンド。長編と短編の違いで現れ方は異なっても、二人は同じ地平に立ったのだと、わたしは思います。

やはり、船戸与一は良い。