2018-01-01から1年間の記事一覧

失望と諦観

民主党への失望は、ただ民主党に向けられたものでしょうか。その政権末期、野田佳彦首相(当時)のとき。既に政権の基盤と呼べるものはなく、野党の自由民主党の協力がなければ何一つ決められない状態でした。そうして政策議題の俎上に上がったのが原子力発…

期待と失望

安倍首相の長期政権を可能にしている要因の一つに、かつての民主党政権への幻滅があると指摘されています。期待と失望は一枚のコインの表と裏。その大きさには相関関係があります。安倍首相と彼の率いる自由民主党の現在の隆盛をもたらした“民主党への失望”…

父との約束

いまは定年退職していますが、わたしの父親は田舎の公務員で、わたしが二十歳になったとき、一つ頼まれて約束したことがありました。選挙があったときは投票すること。誰に投票しろとは言わない、それは個人の自由であり干渉しないが、必ず投票はするように…

印象と数字

ここ最近、安倍首相を批判する際、「民主党(が政権与党にあった)時代は言うほど悪くなかった。これこれの数字は安倍内閣の現在より良い」という言説が見られます。一方、安倍首相を支持する人たちは、各種の様々な数字を挙げて、その手腕と成果を褒めそや…

見識

1988年8月8日、横浜文化体育館で行われた、IWGPヘビー級選手権試合。チャンピオンの藤波辰巳VS挑戦者のアントニオ猪木。いまなお熱く語られる名勝負です。結果は60分フルタイムを戦い抜いてのドロー。ミスター高橋は、著書の『流血の魔術 最強の演技』で、こ…

価値観

故国の敗戦が避けられなくなり、自らの行動が勝利に何ら結びつかないと知りながら、ある作戦を遂行しようとするドイツ人のスナイパー。彼の作戦に気づき、追いかける男たち。その二つの視点から交互に語られる、第二次世界大戦の終戦間際の物語。欧米を舞台…

迷路

複数の人たちがまとまる最も手っ取り早い方法は、外部に共通の敵を作ることです。ならば、人類が一致団結するためには地球の外、宇宙から異星人が攻めてこなくてはいけないのではないか。そう空想せざるを得ないくらい、北東アジアの平和と安定を求めて集っ…

義援金

相変わらず微々たる金額ですが、この夏の西日本豪雨災害の義援金として、地元の社会福祉協議会を通じて寄付をしました。こんなとき、己の力不足を痛感します。それでも「日はまた昇る」のです。無常とは、そういうことかもしれません。

いつものように

今年もまた夏が来て、「あしなが東日本地震津波遺児基金」と「国境なき医師団日本」に寄付をしました。告白します。忘れていました。記憶も決意も、こうして薄れていくのかと愕然としました。ずっと、あの日と地続きの場所にいようと思っています。

『七人の侍』③

「今回も負け戦だったな。勝ったのは百姓たちだ」とは、物語の最後、勘兵衛の締めの台詞です。それは麗らかな日差しの下、田植えの場面です。賑やかなお囃子、新たな季節への喜びに満ちた笑顔。それを離れた場所から眺める勘兵衛たちの横を、苗を担いだ女た…

『七人の侍』②

今回『七人の侍』を観て感心したのが、死の描き方です。野武士との戦いにおいて、七人の侍から戦死者が出ます。それらは敵との一騎打ちの末に壮絶に倒れるというものではありません。種子島(鉄砲)によるものです。それは一瞬の出来事。銃声が轟き、倒れる…

『七人の侍』①

「午前十時の映画祭」にて、黒澤明の『七人の侍』を観ました。映画館で鑑賞するのは、1991年のリバイバル上映以来、二回目です。物語の内容を承知して、展開の繋がりを意識しながら観ることが出来、その脚本の見事さ、言い換えるなら、無駄な登場人物が一人…

面子と大義名分

政治家は、有権者の支持によってのみ政治家たり得ます。つまり、彼ら彼女らが最も重視すべきは支持を得ること、あるいは支持を失わないことです。利害が反する二人の政治家が対峙して、双方が完全な利益(=自分を支持する人たちが完全に満足する結果)を手…

『椿三十郎』

黒澤明の『椿三十郎』を映画館で観る機会を逃してはいけないと、午前十時の映画祭に足を運びました。三船敏郎の豪快な殺陣と、「良い刀は鞘に入っているもの」に代表される、のんびりおっとりした城代家老の奥方とのやり取りのコントラストが鮮やかな、とに…

『国体論』

今上天皇が現在の日本国憲法を肯定し、その枠組みの中で象徴天皇としての役目を模索し実践してきたことに誇りを抱いているのですから、それを書き換えようとする者こそ“反日分子”と呼ばれるべきでしょう。それが、いつの間にか、国家権力機構に対して反対意…

『用心棒』

「午前十時の映画祭」にて、黒澤明の『用心棒』を観ました。かつてビデオで、あるいはLDで何度も観た作品ですが、こうして映画館で観るのは初めてです。殺伐としてリアルな世界観、描写、殺陣。それと対を為す、戯画的に描かれる登場人物たち。しかし、今回…

UWF終わらず

多くの職場で、職を辞する際、給与や仕事内容への不満が理由として挙げられますが、本音のところでは人間関係、上司や同僚との不和が原因だと言われます。結局のところ、UWFも同様だったのでしょう。その最初期、夢枕獏はUWFを“運動体”と指摘しました。そし…

叛史の時代

アメリカ合衆国のトランプ大統領が、北朝鮮の金正恩委員長との会談、その結果として望む非核化の見返りとして、体制の保証をちらつかせています。アメリカは建国以来、民主主義を世界中に広めるべく活動してきました。それが神の意思だからと。代表的な例が…

ご案内

ツイッターにて「船戸与一bot」なるものが始まりました。アフォリズムを拒否した作家が紡ぐ、叙事詩。そこで発せられる言葉は、地の文であれ台詞であれ(共感を求めるが如き)読者に対する自己主張などではなく、作家の溢れ出る想い、そのものです。世界を眺…

女神再臨

冲方丁の『マルドゥック・アノニマス3』は、長大な作品の第一部の完結編という趣です。ついに、ウフコックはバロットの手に“戻りました”。血塗られた都市の物語の、唯一の清涼な存在といえる彼女は、暗闇に差す一条の光、闇の光明の如き存在です。ずっと、こ…

『太陽がいっぱい』

午前十時の映画祭にて、『太陽がいっぱい』を観ました。若さゆえの刹那、酷薄、憂い。そして、しなやかな強さ。男を見て「美しい」と感じたのは初めてです。青い空、透明な海と白いヨット。美しい街並み。そして、タイトルにもなた太陽。そのすべてがアラン…

山で仏に会う

昨年の秋以来、久しぶりに山登りに出かけました。冬山雪山には手が出せません。それほど高い山ではなく、二、三の山が連なっていて、ちょっとした縦走気分も味わえます。そのアップダウンを繰り返しながら、ふと思いました。人生は山あり谷ありと言いますが…

へぼ将棋

船戸与一が亡くなって以来、未読の作品といっても、アンソロジーに収録されている短編か、小説以外の評論やインタビューしかないなかで、ずっと気になっていたのが『棋翁戦てんまつ記』でした。ずっと絶版状態だったのが文庫化されたのは、きっと藤井聡太の…

宮仕えは辛い

山田風太郎は、自作の採点が辛いことで知られています。どう読んでも傑作と思える作品が、本人に言わせるとB級やC級との評。“忍法帖”シリーズにおいて、そのなかでA級とされるものが、90年代前半に講談社ノベルスで刊行された作品群です。これらは一期と二期…

体重超過

ここ数年、ボクシングにおいてチャンピオンの体重超過と、それにともなう王座の剥奪が繰り返されています。そして、興行として穴をあけるわけにはいかず、挑戦者が勝てば新チャンピオンになり、そうでなければ王座は空位とされるという歪な形での試合が行わ…

『手のひらの幻獣』

三崎亜記は、デビュー作の『となり町戦争』以来、現実と似ていながらも微妙に違う、架空の国を舞台にした作品を書き続けています。隅々まで作家の精緻な想像力が行きわたった“もう一つの世界”。そこには、わたしたちの暮らす現実世界とは異なる価値観があり…

もう一つの『長いお別れ』

同じ会話を日々繰り返すのは責め苦の如き苦痛です。そのとき確かに言ったことを、翌日には「そんなことは言っていない」と否定される毎日。いま話していることも、明日になれば記憶から抜け落ちて、言っていない、聞いていないと否定されるとわかっていなが…

記憶

『全電源喪失の記憶 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』を読みました。なぜ、本書のタイトルは“記録”ではなく“記憶”なのでしょう。記録は機械的な作業で残せます。しかし、記憶は不断の努力なくしては残せません。去る者は日々に疎しなら、時の流…

感動しない

『全電源喪失の記憶 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』を読むにあたって、自らに課したことがあります。感動しないこと。感動するという行為は外部からの働きかけに心が反応することです。それは、条件が要るということです。これは、謎解きを主…

悲劇再び

現在、『全電源喪失の記憶 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』を読んでいます。ページを繰りながら、わたしが思い浮かべたのは先の戦争の特攻隊の悲劇です。国と、そこで暮らす家族のために命を散らせた若者の行為を賛美する人もいますが、わたし…