2018-01-01から1年間の記事一覧

涅槃で会おう

空の上には天国があり、西の彼方には極楽浄土、東の彼方には瑠璃光浄土があるとされています。映画『ミッドナイト・ラン』で、奇妙な道行きをともにした二人は、不思議な友情とともに別れの言葉を交わします。「来世で会おう」と。中学生のとき、英語の先生…

今なお船戸与一④

船戸与一が豊浦志朗の名前で書いている「ハードボイルド試論、序の序―帝国主義下の小説形式について」が収められている『ミステリーの仕掛け』(大岡昇平編)を、これまたネットで購入しました。『レイモンド・チャンドラー読本』と同様に、市営図書館に蔵書…

今なお船戸与一③

船戸与一の反チャンドラー論が収められている『レイモンド・チャンドラー読本』をネットで購入しました。市営図書館に蔵書があって、読んだことはありましたが、やはり手元に置いておきたいというコレクターの血が騒ぎました。まず何よりも、チャンドラーの…

後出しじゃんけん

かつて、立花隆(と彼のチーム)が田中角栄の金脈問題をスクープ、追求したことを、ずっと後になってから、「あの程度のことは誰でも知っていた」と評した人たちがいたそうです。このセリフを、みっともない言い訳と思わない人はいないでしょう。夢枕獏が「…

出世と保身

公文書の改竄という未曽有の惨事。日々の報道に接して、そのおぞましさに寒気を覚えます。この事件に政治家の関与が取り沙汰されていますが、そこで名前の挙がっている人たちが怖れているのは、野党の攻撃でもなければ、マスコミの批判でもありません。それ…

官僚の仕事

この本の中で、プーチンはアメリカの官僚の凄さについて言及しています。旧ソ連は、そこに暮らす全員が国家公務員であり、国の形と官僚機構は同一のもの、即ち官僚の国でした。プーチンの目が大統領だけでなく、実務をこなす官僚にも向けられるのは当然です…

牙城崩れず

政治や社会問題に高い意識を持っている映画監督というだけでは、一国の大統領とやり合うには荷が重すぎるのかもしれません。“あの”オリバー・ストーンが、ロシア連邦大統領のプーチンに挑む。そのドキュメンタリーの根幹を成す、複数回にわたる、都合二十時…

今なお船戸与一②

船戸与一が亡くなる直前のインタビュー記事が掲載されている、雑誌「ジャーロ No.53」を手に取りました。まずページを開いて目に飛び込んでくるのは船戸与一の大きな顔写真。そこから目を離せません。透徹した視線を感じさせる、澄んだ眼。インタビューに答…

今なお船戸与一①

原籙のエッセイ集『ミステリオーソ』と『ハードボイルド』が、もともと『ミステリオーソ』として一冊だったものを二冊に分冊して文庫で発売されたとき、収録されている船戸与一との対談を立ち読みで済ませてしまったのは痛恨事でした。その当時、原籙の作品…

『9.11後の現代史』

昨今、異なる他者への憎悪を吐き出す言葉が話題になりますが、それは「そう言っているのは一部の人たちで、大多数は穏やかで理解のある考え方をしている」という注釈とともに語られます。際立って目立つ少数派だからこそ耳目を集めるのなら、イスラム教もま…

いつも

いつも、こんなふうに想っているよ。一緒にいるときも、会えないときも。

羽生結弦のフリーの演技を、土曜日ながら仕事で出勤していて、職場でテレビ観戦しました。その美しい滑り、見事なジャンプに目を奪われながらも、彼のフィギュアスケートへの想いが強く表れていたのは二度の着氷ミスを凌いだ場面だったと思います。どんな一…

『流星ワゴン』

父親と息子の確執など、ありふれたことです。逆に、だからこそ古より物語の題材になったきたのです。ある日、息子は父親が偉大でも立派でもなく、自分と同じ“ただの人”だと知るときが来るといいます。時代も環境も、与えられる情報も違うのですから、そうい…

『コルトM1847羽衣』

月村了衛の『コルトM1847羽衣』。美しい女性が最新式の拳銃、コルトM1847ウォーカーを手に活躍する伝奇時代小説です。その活劇を読んで感じたのは、これまでの作品以上に著者の反骨心が滲んでいることです。それを伝奇小説のなかに溶かし込んで、活劇を描い…

民草

テレビ番組『宇宙刑事ギャバン』の主題歌の2番の歌詞に、このような一節があります。「悪い奴らは天使の顔して、心で爪を研いでいるのさ」それは、こう続きます。「オレもオマエも名もない花を踏みつけられない男になるのさ」これを素直に読めば、悪い奴らと…

『鎮魂歌』

前作『不夜城』の最後、主人公の劉健一は、大略「自分が殺した女の夢をみるが、顔を思い出せない」と語ります。あるいは映画版では、モノローグで「ところで、夏美って誰だ?」と。彼の怒りや復讐心は、その強さのために「誰のため」という理由すら消し去り…

『不夜城』

馳星周の『不夜城』が刊行されたのは1996年。バブルがはじけ、当初は数年のうちに持ち直して、空前の好景気再びということはなくても、ほどほどの適正値に落ち着くだろうと(期待を込めて)思っていたけれど、どうやらそうはいかないらしいと誰もが気づき始…

身も蓋もない

いまさらながら、馳星周の『不夜城』を読みました。北京に上海、台湾といった中国マフィアが抗争を繰り返し、奇妙なバランスを保っている新宿歌舞伎町で、その勢力の間を泳いでいる劉健一。予期せぬトラブルが起きて、身の危険が迫ります。劉健一は生き延び…

『テロリストのパラソル』

藤原伊織の『テロリストのパラソル』は、刊行当初、高い評価を受けるとともに、一部から「全共闘世代のマスターベーション小説」とも評されました。小説は世界を切り取ります。そこに何を見るか、あるいは読むか。それは読者に委ねられます。語るに落ちると…

『水底の女』

村上春樹の小説を評して、「何を言いたいのかわからない。雰囲気を味わうだけのもの」といった類の批判があります。実は、チャンドラーも同種の批評をされています。プロットが弱く破綻している部分がある一方で、流麗な文章と独特な言い回しや、フィリップ…

ボクシング雑感

亀田興毅が現役復帰を口にしました。それを聞いて最初に考えたのは、「数年間のブランクがあって再び戦えるほどボクシングは甘いモノではないだろう」ということです。直近で思い出すのは、ボクシングではありませんが、船木誠勝です。復帰後、思うような結…

ご挨拶

あけましておめでとうございます。昨年はわたしの繰り言にお付き合いいただき、ありがとうございました。今年は、何がどうとは言えませんが、ある予感がします。田村潔司がヴァンダレイ・シウバと対戦するにあたって、その覚悟を「勝ちたい。ただ、勝ちたい…

『狼眼殺手』③

月村了衛は、“機龍警察”シリーズの特筆すべき点は、龍機兵(ドラグーン)という操縦者が乗り込む機械兵器の存在ではなく、警視庁が外部の人間を契約して雇っているところにあると言います。何故、操縦者を警察官から選ばず、外部から連れてきたのか。それは…

『狼眼殺手』②

「わたしは、十二歳のときに持った友人以上の友人を、その後持ったことがない。誰でもそうなのではないか」(映画『スタンド・バイ・ミー』)勝新太郎は、物語には排泄感が必要と言いました。溜まっていたものを吐き出してすっきりする感覚ということです。…

『狼眼殺手』①

高村薫が『黄金を抱いて翔べ』でデビューしたとき、「どうして、こうのような作家が現れたのか」という驚きとともに迎えられたそうです。月村了衛の『機龍警察』(ハヤカワ文庫)を読んだとき、まったく同じ感慨を抱きました。この作家を語るとき、「冒険小…