2019-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『悪の五輪』

月村了衛の『悪の五輪』を読みました。この作品は、もともと東京オリンピックを題材にしたアンソロジーに収録された短編『連環』を長編化したものです。先に書かれた短編を基に長編を書く、レイモンド・チャンドラーと同じ手法です。この作品の主人公は東京…

尽くす

高村薫と南直哉の対談『生死の覚悟』は、仏教の入門書としては薦められません。二人は、仏教に馴染みのない初心者の読者を想定し、それを補うべく前提となる基礎知識を会話の端々に配置するという意識が、ないとは言いませんが希薄です。そして、何よりも本…

『冬の光』その②

この作品に登場する男性は平凡なまでに典型的な企業人です。その妻も、内助の功こそが生きがいという女性です。この妻は、男性との出会いにおいて学歴や知識という意味ではなく、一人の人間として聡明という描かれ方をします。作中において、彼女はまったく…

『冬の光』その①

家族といえども他人です。そのすべてをわかり合えるはずもありません。篠田節子の『冬の光』は、父親と娘(次女)の二つの視点で語られます。第一章は娘によって、母親と姉を交えた女たちによって父親の(彼女たちの目に映った)姿が語られます。第二章は父…