2018-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『鎮魂歌』

前作『不夜城』の最後、主人公の劉健一は、大略「自分が殺した女の夢をみるが、顔を思い出せない」と語ります。あるいは映画版では、モノローグで「ところで、夏美って誰だ?」と。彼の怒りや復讐心は、その強さのために「誰のため」という理由すら消し去り…

『不夜城』

馳星周の『不夜城』が刊行されたのは1996年。バブルがはじけ、当初は数年のうちに持ち直して、空前の好景気再びということはなくても、ほどほどの適正値に落ち着くだろうと(期待を込めて)思っていたけれど、どうやらそうはいかないらしいと誰もが気づき始…

身も蓋もない

いまさらながら、馳星周の『不夜城』を読みました。北京に上海、台湾といった中国マフィアが抗争を繰り返し、奇妙なバランスを保っている新宿歌舞伎町で、その勢力の間を泳いでいる劉健一。予期せぬトラブルが起きて、身の危険が迫ります。劉健一は生き延び…

『テロリストのパラソル』

藤原伊織の『テロリストのパラソル』は、刊行当初、高い評価を受けるとともに、一部から「全共闘世代のマスターベーション小説」とも評されました。小説は世界を切り取ります。そこに何を見るか、あるいは読むか。それは読者に委ねられます。語るに落ちると…

『水底の女』

村上春樹の小説を評して、「何を言いたいのかわからない。雰囲気を味わうだけのもの」といった類の批判があります。実は、チャンドラーも同種の批評をされています。プロットが弱く破綻している部分がある一方で、流麗な文章と独特な言い回しや、フィリップ…

ボクシング雑感

亀田興毅が現役復帰を口にしました。それを聞いて最初に考えたのは、「数年間のブランクがあって再び戦えるほどボクシングは甘いモノではないだろう」ということです。直近で思い出すのは、ボクシングではありませんが、船木誠勝です。復帰後、思うような結…

ご挨拶

あけましておめでとうございます。昨年はわたしの繰り言にお付き合いいただき、ありがとうございました。今年は、何がどうとは言えませんが、ある予感がします。田村潔司がヴァンダレイ・シウバと対戦するにあたって、その覚悟を「勝ちたい。ただ、勝ちたい…

『狼眼殺手』③

月村了衛は、“機龍警察”シリーズの特筆すべき点は、龍機兵(ドラグーン)という操縦者が乗り込む機械兵器の存在ではなく、警視庁が外部の人間を契約して雇っているところにあると言います。何故、操縦者を警察官から選ばず、外部から連れてきたのか。それは…

『狼眼殺手』②

「わたしは、十二歳のときに持った友人以上の友人を、その後持ったことがない。誰でもそうなのではないか」(映画『スタンド・バイ・ミー』)勝新太郎は、物語には排泄感が必要と言いました。溜まっていたものを吐き出してすっきりする感覚ということです。…

『狼眼殺手』①

高村薫が『黄金を抱いて翔べ』でデビューしたとき、「どうして、こうのような作家が現れたのか」という驚きとともに迎えられたそうです。月村了衛の『機龍警察』(ハヤカワ文庫)を読んだとき、まったく同じ感慨を抱きました。この作家を語るとき、「冒険小…