2018-03-01から1ヶ月間の記事一覧

記憶

『全電源喪失の記憶 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』を読みました。なぜ、本書のタイトルは“記録”ではなく“記憶”なのでしょう。記録は機械的な作業で残せます。しかし、記憶は不断の努力なくしては残せません。去る者は日々に疎しなら、時の流…

感動しない

『全電源喪失の記憶 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』を読むにあたって、自らに課したことがあります。感動しないこと。感動するという行為は外部からの働きかけに心が反応することです。それは、条件が要るということです。これは、謎解きを主…

悲劇再び

現在、『全電源喪失の記憶 証言・福島第1原発 日本の命運を賭けた5日間』を読んでいます。ページを繰りながら、わたしが思い浮かべたのは先の戦争の特攻隊の悲劇です。国と、そこで暮らす家族のために命を散らせた若者の行為を賛美する人もいますが、わたし…

涅槃で会おう

空の上には天国があり、西の彼方には極楽浄土、東の彼方には瑠璃光浄土があるとされています。映画『ミッドナイト・ラン』で、奇妙な道行きをともにした二人は、不思議な友情とともに別れの言葉を交わします。「来世で会おう」と。中学生のとき、英語の先生…

今なお船戸与一④

船戸与一が豊浦志朗の名前で書いている「ハードボイルド試論、序の序―帝国主義下の小説形式について」が収められている『ミステリーの仕掛け』(大岡昇平編)を、これまたネットで購入しました。『レイモンド・チャンドラー読本』と同様に、市営図書館に蔵書…

今なお船戸与一③

船戸与一の反チャンドラー論が収められている『レイモンド・チャンドラー読本』をネットで購入しました。市営図書館に蔵書があって、読んだことはありましたが、やはり手元に置いておきたいというコレクターの血が騒ぎました。まず何よりも、チャンドラーの…

後出しじゃんけん

かつて、立花隆(と彼のチーム)が田中角栄の金脈問題をスクープ、追求したことを、ずっと後になってから、「あの程度のことは誰でも知っていた」と評した人たちがいたそうです。このセリフを、みっともない言い訳と思わない人はいないでしょう。夢枕獏が「…

出世と保身

公文書の改竄という未曽有の惨事。日々の報道に接して、そのおぞましさに寒気を覚えます。この事件に政治家の関与が取り沙汰されていますが、そこで名前の挙がっている人たちが怖れているのは、野党の攻撃でもなければ、マスコミの批判でもありません。それ…

官僚の仕事

この本の中で、プーチンはアメリカの官僚の凄さについて言及しています。旧ソ連は、そこに暮らす全員が国家公務員であり、国の形と官僚機構は同一のもの、即ち官僚の国でした。プーチンの目が大統領だけでなく、実務をこなす官僚にも向けられるのは当然です…

牙城崩れず

政治や社会問題に高い意識を持っている映画監督というだけでは、一国の大統領とやり合うには荷が重すぎるのかもしれません。“あの”オリバー・ストーンが、ロシア連邦大統領のプーチンに挑む。そのドキュメンタリーの根幹を成す、複数回にわたる、都合二十時…

今なお船戸与一②

船戸与一が亡くなる直前のインタビュー記事が掲載されている、雑誌「ジャーロ No.53」を手に取りました。まずページを開いて目に飛び込んでくるのは船戸与一の大きな顔写真。そこから目を離せません。透徹した視線を感じさせる、澄んだ眼。インタビューに答…

今なお船戸与一①

原籙のエッセイ集『ミステリオーソ』と『ハードボイルド』が、もともと『ミステリオーソ』として一冊だったものを二冊に分冊して文庫で発売されたとき、収録されている船戸与一との対談を立ち読みで済ませてしまったのは痛恨事でした。その当時、原籙の作品…