2012-01-01から1年間の記事一覧

『大いなる眠り』

“大いなる眠り”とは、作品の最後で言及があるように“死”を意味します。死んだ者には一切が無。死者の眠りは生きている者に冒されることはありません。しかし、旧訳版を読んだときにも思いましたが、頭脳明晰で判断力も衰えていないのに、肉体の老いによって…

悲しみは怒りを呼ぶ

友人の父親が亡くなり、その葬儀に参列しました。つまり、私の親とほぼ同じ年齢ということです。その悲しみは当人のものでしかなく、他人の私は自らの身に置き換えて想像するしかありません。と同時に、それは私の日常に何ら波風を立てず、いつもと変わらな…

革命は成就したか

「革命を起こさないか、この国に」この言葉とともに幕を開けた、五條瑛の“革命”シリーズ。革命とは最も縁遠いと思える日本を舞台に、“多国籍”と呼ばれる移民の“戦い”が描かれます。映画『ブラックレイン』で、外国人の目を通した「何一つ間違っていないけれ…

ごめん

この冬も、微々たる金額ですが「日本ユニセフ」と「あしなが東日本大地震・津波遺児募金」に寄付をしました。こんなことしかできなくて、ごめん。もっと具体的に手を差し伸べることができなくて、ごめん。

I have a dream

「I have a dream(私には夢がある)」と呼びかけたキング牧師は、その後の別の演説で、「私は皆さんと一緒に“約束の地”に行くことはできないかもしれない」と語りました。それでも、彼は「何も怖くない。自分は幸せだ」と結びます。何故でしょうか。それは…

『3月のライオン』第八巻

羽海野チカの『3月のライオン』の第八巻で繰り広げられる、年齢もキャリアも立場も違う棋士たちの三つの対局。そこで描かれるのは、一手ごとに風景が変わる世界で“戦い続けることの尊さ”です。積み重ねることに倦んだとき、私たちは絡め取られるのだと思いま…

胸を張れ

負けたときこそ、胸を張れ。己の信念が微塵も揺らいでいないなら、胸を張れ。それができないなら、去ね。

『冷血』下巻

作家の想像力を超える現実を前に慄いた高村薫は、作家としての在り方を自らに問うように、『晴子情歌』と『新リア王』を書きました。そして、その流れに位置する『太陽を曳く馬』に合田雄一郎を登場させましたが、それは従来の意味での警察小説とは趣きを異…

絶望も幻滅もしない

今回の選挙で自由民主党が圧勝したのは、民主党が歴史的な「政権交代」を成したときと同様、“敵失”によって利を得ただけ。自分たちの力で得点したからではありません。民主党は政権の座を手にして、高価な玩具を与えられた子供のようにはしゃぎ、見当違いな…

絶縁

この(“あの”とは書きません。まだ何も終わっていません)東日本大震災の惨禍と、その後の政治の無様な右往左往を見せつけられて、まだ、自分と家族が暮らすこの国の在り方に関心を持たない人と、私は通じる言葉を持ち得ません。この期に及んで、まだ“他人事…

選挙に行こう

情報は力の源泉であり、同時に力そのものです。それを独占することで、メディアは特別な存在であり続けることができました。新聞に書いてあるから正しい、テレビで言っているから間違いないと。しかし、ネットの普及とともに、その基盤が崩れました。可愛さ…

『冷血』上巻

「私はなぜ、警察小説を書かなくなったか」について、高村薫は語っています。「1995年、東京は八王子のスーパーで、アルバイトの女子高生ら三名が射殺された事件。(中略)被害者は、粘着テープで縛られて頭を(拳銃で)打ち抜かれております。女性たちがそ…

東京大学と官僚

立花隆の『天皇と東大』の第一巻と第二巻を買いました。残りの第三巻と第四巻は来年の発売で、読むのは年明け以降になります。同じく立花隆の別の著書で読んだのだと思います。東京(帝国)大学は、欧米の大学のように“学問の府”としてではなく、近代国家と…

世論調査

選挙を目前に控え、世論調査が真盛りです。しかし、それも行き過ぎると害になります。「選挙結果はこうなる見通しです、議席の配分はこうなります」と、実際には選挙が行われていないのに既定の事実でであるかのように繰り返し報道されたら……。「なんだ、世…

トンネル事故に想う

尊い犠牲。事故が起こるたびに使われる言葉です。何が尊いものか。人の命と引き換えでなければ、何もできないのか。私は、自分の家族が事故に遭わなくて良かったなどとは思えません。それは、家族の無事を喜びながら、その裏側で、犠牲になったのが見ず知ら…

通商の話

FTAは「自由貿易協定」と訳されます。その拡大版がTPPです。特定の相手と、それ以外の大勢とは異なる互いに有利な取り決めをすることが、果たして“自由”と表現すべきものなのでしょうか。疎外された者が、ならば自分たちもと同じことをすれば、それは複数の…

『暴力の教義』

ボストン・テランの『暴力の教義』はメキシコ革命を背景に、父親と息子の奇妙な道行、葛藤が血と暴力とともに描かれます。台詞でも地の文でも、登場人物の心理描写はおろか、その行動に至った理由すら書かれません。打海文三とはまた異なる、行動の羅列。感…

パプティマス・シロッコ

『機動戦士Ζガンダム』で、パプティマス・シロッコは理想と理念を語り、カリスマの如き存在感を持ちます。しかし、その正体を喝破した人物が二人います。一人はカミーユ・ビダン。最後の一騎打ちでシロッコを断罪します。「戦争を遊びにしている」と。一人は…

クワトロ・バジーナ

『機動戦士Ζガンダム』で、シャア・アズナブルは素性を隠してクワトロ・バジーナを名乗っています。ベルトーチカ・イルマは、その正体を知らぬまま、シャアをこのように評します。「なんだか怖い人ね、ギラッとして。戦争以外の世界では生きていけない人じゃ…

バスク・オム

『機動戦士Ζガンダム』の最初期の一場面。エゥーゴとティターンズの間で戦端が開かれたとき。物資を運ぶコンテナに同乗して僚艦へ移動中のティターンズのバスク・オム大佐は、エゥーゴの戦艦アーガマの砲撃の衝撃に揺られながら呟きます。「戦争だな」と。七…

過半数

かつて自由民主党が政権与党にあった頃。総理大臣が誰かに関係なく、その時々の最大派閥が支配力を持っていました。それは数の力。多数決の話です。キーワードは過半数。国会という大きな枠組みの中で、過半数を超える議席を有する集団が与党として権勢を振…

目論み

何事、当初の目論見通りには運ばないものです。そう考えたとき、私が思い出すのは昭和の全日本プロレスです。ジャンボ鶴田は、ジャイアント馬場の後継者として全日本プロレスに入団し、馬場の衰えとともに、入れ替わるようにメインイベントを任されるように…

省みる

新聞やテレビで“第三極”という言葉が踊っています。しかし、振り返ってみましょう。それほど遠くない過去。“反自民”という旗印の下に集まった細川連立内閣は、その目的を果たした後、あっさり崩れ去りました。“政権交代”という宿願を果たした民主党は、寄り…

生存競争

『世界に一つだけの花』について、「競争を避ける言い訳」「努力を否定する」という趣旨の批判があります。確かに、やることなすことが上手く行かずに落ち込んでいるときに聴くと、耳に心地好く響きます。しかし、それはまやかしです。花が美しいのは、香り…

買い方売り方

最近、お菓子や特産品の訪問販売が多いです。片手で引けるカートに商品を積み、一軒一軒回っているようです。物が売れない状況が続いていますが、もう一つ思い浮かべたことがあります。例えば家電製品で、まず量販店に出向いて品物を確認し、それからネット…

臆病

「武士道と云ふは死ぬことと見つけたり」の一文が有名な『葉隠』を題材にした隆慶一郎の『死ぬことと見つけたり』の主人公たちは、毎朝必ず、布団から起き出す前に自分が死ぬ場面を克明に思い描きます。そうして、その日一日を“死人(しびと)”として生きま…

親孝行

「自分たちが幸せになることが親孝行」と云います。では、何故それが親孝行になるのでしょうか。理屈ではないことを承知しつつ、それでも言葉にしてみます。「子供が幸せになることは、親の名誉である」と。

魂の救済の物語

夢枕獏は、小説に求められるものとして、シンプルに「面白いこと」と断言します。エンターテインメントとして書かれた小説を読み終えて、「嗚呼、面白かった」と本を閉じるのは正当な評価でしょう。その“面白い”という基準を充分に満たして、それだけで終わ…

眼光

BOX

先週からコンタクトレンズをつけて練習しています。視界くっきり、楽しさ三割増し。そして、今日。プロ選手とマスボクシング(実際には当てない、スパーリングの手前の練習)をしました。実際には、私の練習相手をしてもらったというのが正確な表現です。向…

パワーゲーム

理想を実現したいのなら、その立場にいなければならないという理屈はわかります。市井の一市民ではなく、国会議員だからこそ揮える力もあるでしょう。石原慎太郎の都知事辞任。しかし、私は「この人たちは、所詮“権力闘争”というゲームを遊んでいるに過ぎな…