革命は成就したか

「革命を起こさないか、この国に」

この言葉とともに幕を開けた、五條瑛の“革命”シリーズ。革命とは最も縁遠いと思える日本を舞台に、“多国籍”と呼ばれる移民の“戦い”が描かれます。

映画『ブラックレイン』で、外国人の目を通した「何一つ間違っていないけれど、私たちが知っているのとは違う日本」が描かれたように、五條瑛は、確かな手触りを持った近未来の日本を作り上げました。

常識とは何でしょうか。それは、物事を円滑に動かすための暗黙の了解に過ぎません。それに反したからといって、法的に罰されることはありません。“多国籍”と呼ばれる人々は、日本人がお互いを守るために作った常識を歯牙にもかけず、実利のみを追い求めます。勝てば官軍。その“結果”のみが価値。そうして、彼らは着実に地歩を固めていきます。

社会制度の埒外に置かれ、“生きる”のではなく“行き抜く”しかない多国籍。不況だと声高に嘆いていても、祖国と比べれば黄金の国、日本。能書きの前に、少しでも多く掴み取れ。講釈の前に、少しでも多く奪い取れ。

自分(たち)が恵まれていることに無頓着な“恵まれた者”と、恵まれていないからこそ、自分(たち)が恵まれていないことを骨身に沁みて知っている“恵まれない者”。両者の間の、どうしても越えられない壁、断絶。

そして、彼ら彼女らの存在が無視できないほど大きくなったとき、この国が揺らぎ始めます。多国籍を排除すべきと叫ぶ国粋主義者がいる一方で、多国籍を組み込むことを前提に社会は回っています。混沌と混乱。その状況を加速させるべく暗躍する連中。さらに、その上前を撥ねるかのように、その動きを利用しようとする者たち。この国の“革命”の始まり。

前の戦争の末期から、それを役目と心得た一部の者のビジョンを基にした革命。それは革命の名に値するのでしょうか。答えは否です。物語は、それを利用しようとする者たちの思惑を超えていきます。日常を生きる人々の、失われる命を目撃したことで噴出した本能が、ビジョンという名の思惑を、独りよがりな使命感を蹴散らしていきます。

ヒトは、日常を積み重ねることでしか生きられません。一足飛びに何者かになることはできません。そして、誰もがその途上で死を迎えます。

私たちは“行き抜く”意志と力を持たなければ、“生きる”ことができません。その厳しい事実を、老いも若きも男も女も魅力的な登場人物、散りばめられた謎また謎、人間関係も含めて複雑に配された伏線、それらが物語の展開の中で収斂していく快感と挙げていけば限りがありません、ページを繰る手を止めさせない“読む楽しさ”に満ちたエンターテインメント小説として書き上げた著者に最大の拍手を送ります。

喪国<Revolution> (R/EVOLUTION 10th Mission)

喪国 (R/EVOLUTION 10th Mission)