2010-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『強欲資本主義』神谷秀樹

自分がどのような社会に生きているのか。その関心を持つことは動物としての本能であり、それを失くすことは緩やかな死そのものです。ちょうど一年前、『すべての経済はバブルに通じる』(小幡績著・光文社新書)を読みました。そこで著者は、資本を持つ者と…

朝青龍の背中の向こう

先日読んだ『格差ゲームの時代』でも取り上げられていた大相撲の横綱朝青龍。これまで何度も不祥事を起こしては厳重注意やペナルティを受けてきました。朝青龍は貴乃花と入れ替わる形で横綱になりました。もう一人、武蔵丸が横綱として活躍していましたが、…

柳生宗矩

希代の剣客にして、一介の剣豪でありながら大名になった柳生宗矩。徳川家康、秀忠、家光に仕え、大目付(総目付け)の要職に付いて徳川幕府の礎を築く一端を担いました。その著書、「兵法家伝書」にこのような言葉があります。“刀剣短くば一歩進みて長くすべ…

もう一度、『μ』ircle

田舎暮らしの辛いところ、今日になってようやくircleの『μ』を手にすることができました。早速帰りの車の中で聴きました。驚きました。詞の紡ぐ世界観も、それを表現する演奏も、実に多彩でした。親戚の子が、ちょっと見ない間に大きくなって驚くような気分…

未だ……

当日の夜、三沢光晴の死をネットのニュースで知り、何時間もあちこちのサイトやブログを渉猟しました。それは、三沢の死が誤報であることを確認したい一心からでした。テレビで追悼番組がありました。現在では、三沢の死の直後のリングの様子を映した動画を…

往復書簡 逢坂剛と船戸与一

先日紹介した「第一回山本周五郎賞選考会」は小説新潮の1988年8月号に載っていたものです。同じ号のグラビアページには船戸与一の自宅でくつろぐ様子や、机に向かって執筆している姿が写されています。(撮影は篠山紀信)そして、巻末には逢坂剛の、船戸与一…

第一回山本周五郎賞選考会6

<井上>教養小説、成長小説というのは、あるきちっとした社会の制度があり、よき市民というのもいて、そこへ近づいていくんだと思うんですが。<山口>読み方が分からないんだ。たしかに帯は無責任だけど、本当に作者もビルドゥングス・ロマンを目指したと…

第一回山本周五郎賞選考会5

実際の誌面には『猛き箱舟』以外の候補作についてのやり取りがあります。そして、休憩後、点数の修正をして(野坂昭如が『猛き箱舟』を三点に引き上げたりします)合計したところ、『猛き箱舟』が最下位となります。しかし、他の作品の中には、全委員から平…

第一回山本周五郎賞選考会4

<野坂>僕は二点です。この本の帯で、これはビルドゥングス・ロマンだと言っているけれども、主人公がテロリストに成長していく上で、どうも僕は説得されなかった。彼が死人の目をもつ人物になり、実際に死んでしまうと今度は柔らかい顔になったという、そ…

第一回山本周五郎賞選考会3

<藤沢>私は四点ですね。欠点のほうから先に言いますと、やっぱり長過ぎると感じました。ストーリーはいくら長くてもかまわないんですが、表現が冗漫なために長くなるのは困るんです。それから、これはチンピラがテロリストに成長する物語で、そのせいかも…

第一回山本周五郎賞選考会2

<田辺>私は四・九なんです。とっても面白かった。ほとんど満点に近いんですが、なぜ〇・一駄目だったかというと、登場人物がみんな死んでしまうんですね。このごろは、女の人もたくさん冒険小説を読むようになりましたから、全員が死ぬというのは女性の嗜…

第一回山本周五郎賞選考会1

−では、船戸与一氏の『猛き箱舟』からお願いします。<山口>これは私は三点です。大変な力作だとは思いますが、とにかく長過ぎますね。それと、一般に復讐物語というのは、いざ復讐する段になると復讐される側、つまり悪の巨魁が急に弱くなってしまうという…

前口上

ブログを始めて半年が過ぎました。そこで、記念企画。私的・船戸与一論番外編。第一回山本周五郎賞選考会を、候補作になった船戸の『猛き箱舟』についての意見を中心に紹介します。結果的に船戸は落選し、第五回で『砂のクロニクル』にて同賞を受賞します。…

私的・船戸与一論補遺

この世の無機質さを思い知らされた香坂の、人としての慟哭がなぜ聞こえないのか。死に行く隠岐の胸中に響く、魂の叫びがなぜ聞こえないのか。 有名な絵画に、ムンクの「叫び」という作品がある。一見、描かれた人物が叫んでいるようだが、実は逆で、世界の叫…

情けは人の為ならず

本来は、他人にかけた情けは巡り巡って自分に返ってくる、という意味ですが、裏を返せば、つけは払わなければいけないということでもあります。結局、自民党“A”から自民党“B”に政権が移っただけのこと。一方がかつて言っていたことを今度は言われ、他方がか…

この曲は思い出の曲2

掌から宝石に等しい輝きを持つ砂がこぼれ落ちるのを、ただ黙って見守っていた日々。この曲を聴いていました。私には「猛烈に青春もの(の小説や漫画)を読みたくなる発作」があり、「ROOKIES」はテレビドラマも原作漫画も、そのストライクゾーンのど真ん中に…

私の好きな作家:五條瑛

「私が書きたいのは文学作品ではなく、ペーパーバック」という矜持を胸に、『スリー・アゲーツ』で大藪春彦賞を受賞した以外、文学賞とは無縁の作家、五條瑛。当時の防衛庁(現在は防衛省)の情報分析官、それも北東アジア地域を専門にしていたというキャリ…

『μ(ミュー)』ircle

ボクシングジムに通う車の中で聴くのがすっかり習慣になった、ircle。彼らの新しいミニアルバムが発売されます。μアーティスト: ircle出版社/メーカー: K&A CO.,LTD.発売日: 2010/01/20メディア: CD購入: 1人 クリック: 10回この商品を含むブログ (3件) を見…

見苦しい独白2

彼女の背中が遠ざかっていく。 それは、僕が立ち止まっているということなのか? いや、例え僅かでも、前に進んでいると信じる。「人生は死ぬことじゃない。生きることだ。これからのものは、何よりも生きなくてはならない。自分自身を生かさなくってはいけ…

『格差ゲームの時代』佐藤俊樹

何を買うつもりもなく本屋に立ち寄った時、まるで私を待っていてくれたかのように目に飛び込んでくる本があります。厳密に考えれば、そのような傾向の本を私が欲していたのでしょうが、それでも嬉しい出会いです。『格差ゲームの時代』(旧題:00年代の格差…

中堅考(続:ヒール考)

かつて(と書くのは、私が現在、プロレスを熱心に観ていないからです)プロレスには渋い実力者が中堅レスラーとして活躍していました。作家の氷室冴子はかつて自著の中で登場人物にこう言わせました。「だれだって自分が一番だと思いたいけれど、現実はそう…

ヒール考(加筆訂正)

かつて(と書くのは、私が現在、プロレスを熱心に観ていないからです)プロレスには強烈な個性を持つヒール(悪役レスラー)がいました。彼らはある時はベビーフェイス(善玉レスラー)を血だるまにし、ある時は試合が成立しない程ただただ暴れまくりました…

私の好きな絵本

『だいじょうぶ だいじょうぶ』いとうひろし作・絵だいじょうぶ だいじょうぶ (講談社の創作絵本)作者: いとうひろし出版社/メーカー: 講談社発売日: 1995/10/17メディア: 単行本購入: 10人 クリック: 35回この商品を含むブログ (102件) を見るこの絵本を読…

大晦日格闘技雑感

作り手にビジョンが無ければ、観る側は戸惑うばかり。昨年の大晦日、恒例の格闘技イベントは選手も含めての人材不足が際立ったものでした。選手及び試合で印象に残ったのは、吉田秀彦の眼光の鋭さのみ。吉田は石井慧との対戦について、「心中に期するものが…