2010-01-19から1日間の記事一覧

第一回山本周五郎賞選考会6

<井上>教養小説、成長小説というのは、あるきちっとした社会の制度があり、よき市民というのもいて、そこへ近づいていくんだと思うんですが。<山口>読み方が分からないんだ。たしかに帯は無責任だけど、本当に作者もビルドゥングス・ロマンを目指したと…

第一回山本周五郎賞選考会5

実際の誌面には『猛き箱舟』以外の候補作についてのやり取りがあります。そして、休憩後、点数の修正をして(野坂昭如が『猛き箱舟』を三点に引き上げたりします)合計したところ、『猛き箱舟』が最下位となります。しかし、他の作品の中には、全委員から平…

第一回山本周五郎賞選考会4

<野坂>僕は二点です。この本の帯で、これはビルドゥングス・ロマンだと言っているけれども、主人公がテロリストに成長していく上で、どうも僕は説得されなかった。彼が死人の目をもつ人物になり、実際に死んでしまうと今度は柔らかい顔になったという、そ…

第一回山本周五郎賞選考会3

<藤沢>私は四点ですね。欠点のほうから先に言いますと、やっぱり長過ぎると感じました。ストーリーはいくら長くてもかまわないんですが、表現が冗漫なために長くなるのは困るんです。それから、これはチンピラがテロリストに成長する物語で、そのせいかも…

第一回山本周五郎賞選考会2

<田辺>私は四・九なんです。とっても面白かった。ほとんど満点に近いんですが、なぜ〇・一駄目だったかというと、登場人物がみんな死んでしまうんですね。このごろは、女の人もたくさん冒険小説を読むようになりましたから、全員が死ぬというのは女性の嗜…

第一回山本周五郎賞選考会1

−では、船戸与一氏の『猛き箱舟』からお願いします。<山口>これは私は三点です。大変な力作だとは思いますが、とにかく長過ぎますね。それと、一般に復讐物語というのは、いざ復讐する段になると復讐される側、つまり悪の巨魁が急に弱くなってしまうという…

前口上

ブログを始めて半年が過ぎました。そこで、記念企画。私的・船戸与一論番外編。第一回山本周五郎賞選考会を、候補作になった船戸の『猛き箱舟』についての意見を中心に紹介します。結果的に船戸は落選し、第五回で『砂のクロニクル』にて同賞を受賞します。…

私的・船戸与一論補遺

この世の無機質さを思い知らされた香坂の、人としての慟哭がなぜ聞こえないのか。死に行く隠岐の胸中に響く、魂の叫びがなぜ聞こえないのか。 有名な絵画に、ムンクの「叫び」という作品がある。一見、描かれた人物が叫んでいるようだが、実は逆で、世界の叫…