第一回山本周五郎賞選考会3

<藤沢>私は四点ですね。欠点のほうから先に言いますと、やっぱり長過ぎると感じました。ストーリーはいくら長くてもかまわないんですが、表現が冗漫なために長くなるのは困るんです。それから、これはチンピラがテロリストに成長する物語で、そのせいかも知れませんが全体として花がない。全員が死んでしまうことも併せて、救済とかカタルシス、こういう、読者が小説を読んで得られる花が感じられませんでした。

しかし、いいほうを言いますと、一部にこれは劇画だという批評もありましたが、私は決してそうは思わなかったですね。日本の海外に対する経済進出と表裏一体になったものが、こういう形でかどうかわかりませんが、たしかに存在したのではないか。たとえば、フィリピンで若王子さんが誘拐された時に、イギリスの危機管理会社がひょこっと顔を出しましたね。ああいうものが存在するということはあるわけで、そういう点ではリアリティがきちんと計算されている物語ではないかと思います。

さらに言えば、西サハラの情勢とか、いろんな武器に対する知識とか、こういうものの押さえ方も素晴らしい、一級品の文章を持っていると思いますね。