『我らが少女A』
高村薫の『我らが少女A』は『マークスの山』に始まる“合田雄一郎”シリーズの最新作です。
ある殺人事件が起き、取り調べの過程で、被害者の女性が12年前の別の殺人事件に関わっていた可能性が浮上してきます。物語の焦点は、その女性。12年前には高校生だった少女Aです。その再捜査は、水に放り込まれた石が波紋を広げるように、被害者の家族や友人、知人の記憶を刺激し、心をざわつかせます。
この物語は三人称多視点で語られ、そこに規則性があります。視点を受け持つ人物が変わるとき、つまり場面が変わるときです。A→Bと変わるとき、Aのパートの最後にBへの、あるいはBのパートの最初にAへの言及があり、視点は変わっても時間も空間も繋がっていきます。そうでないときには、「同じ夜~」「そのころ~」等と始まることで、時間軸はそのままで場所だけ切り替わることになります。この同時(進行)性が素晴らしい。
人は、意識的にしろ無意識にしろ他者と繋がっています。そこには上下も優劣もありません。
「誰にも価値があるのでなければ、誰にも価値はない」とはマイクル・コナリーの小説の主人公、ハリー・ボッシュの言葉ですが、ここで捻くれた解釈をするならば、価値とは差異です。それが誰にもある、あるいは逆に誰にもない場合、すべてがフラットであり、そこに差異はなく、それはつまり価値という概念そのものがないということです。
それでも、この日々は尊い。そう思わせてくれる、否、それに気づかせてくれる作品です。
- 作者: ?村薫
- 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
- 発売日: 2019/07/20
- メディア: 単行本
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