2010-07-01から1ヶ月間の記事一覧

古本屋にて2

前の記事のものとは別の、某チェーン店の古本屋にて。やはり仕事帰り、何を買うでもなく店内をぶらついていた私は、小さな子供を連れた若い夫婦と擦れ違いました。そして、背中超しに聞いた会話。妻「あっ、この本読みた〜い」夫「じゃあ、買っていこうか」…

古本屋にて

午後七時過ぎ。田舎の、ゲームソフトや漫画、雑誌もある複合タイプの、客もまばらな古本屋。仕事帰りに立ち寄り、文庫の棚の前をぶらついていた私の耳に届いてきたのは、小さな子供のものとわかる、歩幅の小さな、ぱたぱたというサンダルの足音だった。不思…

インタビュー:タイガーマスク

昨夜の記事と“同時代の空気”繋がりで。『江夏の21球』で知られる、スポーツノンフィクション作家の故山際淳司に、『ナックルボールを風に』(角川文庫・絶版)という作品があります。その中に、当時ブームを巻き起こして人気絶頂だった(初代)タイガーマス…

最後にひと言

傑作の『春の雪』と『奔馬』ではなく、あえて『天人五衰』について。物語が終わる、その最後の場面は当時高校生だった私に特大の衝撃を与えてくれました。「それも心々ですさかい」という科白は、その柔らかい語感とともに、ずっと覚えています。そして、そ…

認識者=悪の断罪

(前略)佐伯:本多を若返らせたかたちで、透という認識者を悪と規定して、これを破滅させ、そこで強引に論理的な結末をつけようとしたということなのかもしれないね。村松:(大略)盲になってから以後の透は認識者ではあり得ないわけでしょう。盲になった…

書き急いだ『天人五衰』

村松:その『天人五衰』ですがね、それ以前の三巻は、平均して連載の期間が十九ヶ月くらいあるんですよ。ところが最後の巻だけは七ヶ月、そういうあわただしい息づかいが、やはり何らかの形でこの作品の中に入り込んでいるんじゃないかという気がする。(中…

官能性と仏教的なものの所在

村松:『暁の寺』でジン・ジャンは蛇に腿を噛まれて死ぬわけだけど、孔雀明王経ではあれは指を噛まれるんだよ。腿にしたのは官能性をあらわそうとしたのだろう。佐伯:そう、しかしあの小説では官能性はあんまり感じないんだ。ジン・ジャンは作中人物として…

認識者と『暁の寺』の問題

村松:ところで今の話とつながってくるんだけど、第一巻、第二巻と読んでくると、これは安定した二つの小説だと思う。ところが『暁の寺』から急速に変るでしょう。佐伯:それが非常に問題だ。あそこへくると俄然本多という人物が正面に押し出されてくる。つ…

三島文体の宿命

村松:第一巻が出た時、文章が今迄と違って、非常にふくよかだなという気がしたな。目の前に在るものを説明し尽くさなければ気がすまないというあの基本姿勢は変らないんだけれど。佐伯:初期はアフォリズムで断定したり、名文句、警句をひょいひょいと出す…

大長編の構想

村松:大長編を書くということを三島さんから最初に聞いたのは、昭和三十八年なんだけれどね。後で本人が書いているのを見ると、じつは昭和三十五年頃から計画していたらしい。さらに着想そのものは日記をひっくり返したら、昭和二十五年くらいにすでにあっ…

前口上、再び

ブログを始めて一年が経ちました。半年前のように記念企画をと考えながら、何を書いたら良いかと考えているうちに日数が過ぎてしまいましたが、折角なので……。私にとって最高の小説は、三島由紀夫の『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』から成る“豊饒の…

ワン・ツーの先

ボクシングの基本はジャブからストレートのワン・ツーです。プロテストのチェック項目の一つにも、ワン・ツーがきちんと打てているか、とあります。基本は大切ですが、実際に相手と向き合った時、意識がワン・ツーを打つことで止まっていては、まずパンチは…

母親というもの

元スパイ、元旅客機爆破犯、元死刑囚。それらの肩書きには何ら意味がありません。新しい事実の確認もできず、拉致問題に何ら進展もなかった狂想曲。今回の来日騒ぎに関わった政治家や官僚には、出来事を自分の身に置き換えて想像する能力が無いのでしょうか…

『ザ・ロード』その弐

映画『ザ・ロード』は限られた数の映画館でしか上映されておらず、このままではDVD化を待って、自宅で観ることになりそうです。何故、このようなことに? 全国の東宝系の映画館で順次ロードショーということで、一縷の望みを託します。

心頭滅却すれば火もまた涼し

当ブログをご覧いただいている皆様、暑中お見舞い申し上げます。

BOXFIGHT始動

いよいよ動き出したBOXFIGHTは“わかりやすさ”を標榜し、その闘いに三ラウンドという時間的制約を課しています。以前、ボクシングにおける判定勝利の価値について書いたことがあります。BOXFIGHTとボクシングの一番の違いはこの点だと思います。短い試合時間…

君子は豹変す

好きの反対は嫌いではなく、無関心。「K-1心中」にて、先日のK-1 WORLD MAXの結果を受けて、web新さんが石川直生に対する、愛あるが故の厳しい意見を書いています。しかしながら、私なりに考えをまとめるのに日数を要し、コメント欄に意見を書くには時期を失…

仕事量保存の法則

かつて、日本人は、来日した外国の人々が尊敬の念を抱くほど礼儀正しく、思い遣りに満ちていたと言います。そして、現在。恥という概念は無くなるか、或いは変質しました。個人の面子という卑小なものに。経済的な豊かさとともに、美徳と呼ばれるものを失く…

『ザ・ロード』

コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』(ハヤカワepi文庫)を読みました。映画も現在公開中です。「空には暗雲がたれこめ、気温は下がりつづける。目前には、植物も死に絶え、降り積もる灰に覆われて廃墟と化した世界。そのなかを父と子は、南への道をた…

私の作法:読書編

私は、ある作家に興味を持った時、文庫になっている作品の中から、世評の高い(或いは、私の好きな作家が褒めている)ものを手に取ります。そうして気に入れば、文庫になっている長編作品を片っ端から読み、次に短編集に進みます。次の段階。絶版や品切れで…

私の作法

趣味の一つ。登山というと、ちょっと大袈裟。山登りの方がしっくりきます。テントを背負って縦走するといった本格的なものではありません。前日の深夜に登山口に着いて、仮眠を取り、日が昇る前に出発します。上りに四時間くらい、山頂で早めに昼食を摂り、…

大藪春彦とルパン三世

大藪春彦の影響が広範囲に及んでいることは承知していましたが、まさか『ルパン三世』にまでとは。評価の内容が同じでありながら、現れ方がプラスとマイナスに分かれる“ゆらぎ”。子供の視聴者の意見を直に聞くには、その子供たちが自分たちの言葉で語れる年…

貴様ほどの男が

そして、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』。この作品に登場するのは、強さと弱さの両方を持った大人の男たちです。打算、謀略、革命への憧憬。その戦いの果て、映画の最後の台詞(と言ったら語弊があるかもしれませんが)は、産まれたばかりの赤ん坊の産声…

刻の涙

これほど、製作者の苦悩が伝わってくる作品もありません。不思議なもので、それも含めて、この『機動戦士Ζガンダム』は魅力的です。放映当時、子供心にも「特別な作品が始まる」と身構えました。そのせいか、今もこの曲を聴くと落ち着きません。雌伏の時を過…

「Number」の良心

スポーツ雑誌「Number」の最新号。ある記事の中に、相撲界の野球賭博に関する報道とも呼べない報道について、「まるで、メディアによる人民裁判」という文章がありました。その記事を書いた作家(ライター)も見事なら、それを掲載した雑誌もまた見事です。“…

今こそ

日本振興銀行の前会長、木村剛容疑者が逮捕されました。容疑等についてはご存知の通り、ここでは特に触れません。彼は、当時の小泉純一郎元首相と、竹中平蔵氏を通じて間接的に、しかし、密接に繋がっていました。この国の現代史において、あの時代は何だっ…

つかこうへい

つかこうへいが亡くなりました。私はそれほど熱心な読者ではありませんでしたし、そもそも、その舞台を観たことがありません。それでも、いて当然の人がいなくなった感覚があります。『小説熱海殺人事件』での、取り調べている容疑者を諭す、刑事の台詞。世…

船戸与一のプロ論

http://rikunabi-next.yahoo.co.jp/proron/1027/proron_1027.htmlちょうど一年前。船戸与一が肺ガンで余命一年という話をネット上で目にして以来、ずっと気になっていましたが、医療技術の進歩は日進月歩、研究も進んでいます。現在は医者も「いつ死ぬかなん…

逆風車の理論

青木真也が川尻達也に完勝しました。私たちは似た試合を最近観ました。ヒュードルVSヴェウドゥムです。互いの良さが存分に発揮され、倒し倒される攻防。観る者の感情を揺さぶる、ビジュアル的に“わかりやすい派手さ”。大歓声の中で決着し、大きな温かい拍手…

イノセンス

涼しく過ごしやすい夜に、ちょっと一曲。