古本屋にて

午後七時過ぎ。田舎の、ゲームソフトや漫画、雑誌もある複合タイプの、客もまばらな古本屋。

仕事帰りに立ち寄り、文庫の棚の前をぶらついていた私の耳に届いてきたのは、小さな子供のものとわかる、歩幅の小さな、ぱたぱたというサンダルの足音だった。不思議なもので、棚に遮られて姿は見えないのに、その子の浮き立つような、飛び跳ねるような様子が伝わってくる。

そして……。「おにいちゃん、あったよー」

店中に響く女の子の元気な声。嬉しい気持ちがたっぷり詰まった声に、見えないにもかかわらず、私は手にした本から顔を上げた。

そして、おそらく傍に来た兄に話しかける妹の声は、もう私には内容が聞き取れず、ただただ、その本について説明する、というよりも、アピールする興奮が伝わってくるだけ。

その声に想像する。きっと、妹が見つけたのは、本人ではなく、兄が好きなキャラクターの本だったのだろうと。自分のことよりも、自分が愛する人が喜ぶ姿に喜びを感じる。兄のために嬉しい。それが嬉しい。

私も嬉しかった。普段から、兄は妹を慈しみ、妹は兄を慕う。毎日のように兄妹喧嘩をしても、それも含めて仲の良い兄妹。そんな想像が脳裏を過ぎる。

声だけの物語。幸せのおすそ分けをもらった夜。