スウィングしなけりゃ

佐藤亜紀の『スウィングしなけりゃ意味がない』はナチス政権下のドイツはハンブルクが舞台。まだ禁止されてはいないアメリカの音楽、ジャズに熱狂する若者たちの姿を描いています。

スウィングとは、生き生きと輝く生命の燃焼でしょう。それを邪魔するものは国家であっても許さない。その独立不羈の在り様こそが、この物語の醍醐味です。

権力に隷属し、それに阿った言動をしてみたところで、力こそが正義であり、その側に身を置く自分は他人よりも優位な立場にあるという思い込みに実態はなく、有象無象は捨て駒として使い捨てられるだけです。

それとは正反対、その国家すらスウィングのためにあるのであり、それを妨げる存在なら価値はないとする態度こそ、大藪春彦の語った「フリーな精神」そのものでしょう。

それを悲壮感ではなく、どこまでも軽みを以て描いたことに、この作品の美点があります。

スウィングしなけりゃ意味がない。これは語順を変えれば、意味があるようにスウィングさせてやるという意思表示、宣言です。

そのスウィング=意味を見失うことなく生きる若者たちの姿が訴えかけてくるものは極めて今日的でハードです。