傑作の『春の雪』と『奔馬』ではなく、あえて『天人五衰』について。
物語が終わる、その最後の場面は当時高校生だった私に特大の衝撃を与えてくれました。「それも心々ですさかい」という科白は、その柔らかい語感とともに、ずっと覚えています。
そして、その第四巻の主人公の透。彼は、自分が選ばれた人間であるとの自負によって、彼という人間であり得ました。それが矮小な自己満足に過ぎなかったと知った彼は、廃人の如くなりました。
その透を嗤うことは、私にはできません。
映画『アマデウス』のサリエリの台詞です。
「世の中の凡庸なる人々よ、私は彼らの代表だ。守護聖人だ。凡庸なる人々よ、私が許そう。君らの罪を許してやろう」