2010-07-29から1日間の記事一覧

インタビュー:タイガーマスク

昨夜の記事と“同時代の空気”繋がりで。『江夏の21球』で知られる、スポーツノンフィクション作家の故山際淳司に、『ナックルボールを風に』(角川文庫・絶版)という作品があります。その中に、当時ブームを巻き起こして人気絶頂だった(初代)タイガーマス…

最後にひと言

傑作の『春の雪』と『奔馬』ではなく、あえて『天人五衰』について。物語が終わる、その最後の場面は当時高校生だった私に特大の衝撃を与えてくれました。「それも心々ですさかい」という科白は、その柔らかい語感とともに、ずっと覚えています。そして、そ…

認識者=悪の断罪

(前略)佐伯:本多を若返らせたかたちで、透という認識者を悪と規定して、これを破滅させ、そこで強引に論理的な結末をつけようとしたということなのかもしれないね。村松:(大略)盲になってから以後の透は認識者ではあり得ないわけでしょう。盲になった…

書き急いだ『天人五衰』

村松:その『天人五衰』ですがね、それ以前の三巻は、平均して連載の期間が十九ヶ月くらいあるんですよ。ところが最後の巻だけは七ヶ月、そういうあわただしい息づかいが、やはり何らかの形でこの作品の中に入り込んでいるんじゃないかという気がする。(中…

官能性と仏教的なものの所在

村松:『暁の寺』でジン・ジャンは蛇に腿を噛まれて死ぬわけだけど、孔雀明王経ではあれは指を噛まれるんだよ。腿にしたのは官能性をあらわそうとしたのだろう。佐伯:そう、しかしあの小説では官能性はあんまり感じないんだ。ジン・ジャンは作中人物として…

認識者と『暁の寺』の問題

村松:ところで今の話とつながってくるんだけど、第一巻、第二巻と読んでくると、これは安定した二つの小説だと思う。ところが『暁の寺』から急速に変るでしょう。佐伯:それが非常に問題だ。あそこへくると俄然本多という人物が正面に押し出されてくる。つ…

三島文体の宿命

村松:第一巻が出た時、文章が今迄と違って、非常にふくよかだなという気がしたな。目の前に在るものを説明し尽くさなければ気がすまないというあの基本姿勢は変らないんだけれど。佐伯:初期はアフォリズムで断定したり、名文句、警句をひょいひょいと出す…