仕事量保存の法則

かつて、日本人は、来日した外国の人々が尊敬の念を抱くほど礼儀正しく、思い遣りに満ちていたと言います。そして、現在。恥という概念は無くなるか、或いは変質しました。個人の面子という卑小なものに。

経済的な豊かさとともに、美徳と呼ばれるものを失くしてしまった、という考えは以前からありました。経済力と精神の気高さが反比例するなら、その総量はいつもプラスとマイナスが差し引きゼロ。仕事量保存の法則に合致します。

『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』(キングスレイ・ウォード著)という本があります。その中に、「礼儀正しさにまさる攻撃力はない」という章があります。あたりまえのマナー、「ありがとう」「どういたしまして」「恐れ入ります」「お願いします」という言葉と態度がより良い人間関係、結果をもたらすという内容です。

礼儀正しさは、他人のあなたに対する好意に繋がります。それは、人間社会の中であなた自身の身を守ることでもあります。

皆が貧しかった時代。礼儀正しさは互いに互いを守る手段、処世術だったのかもしれません。それが経済的繁栄とともに失われたのだとしたら、実は日本人の礼儀正しさは、そのDNAレベルに刻印された誇るべき遺産ではなかったことになります。

ならば、意識して作りあげるまで。

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙    新潮文庫

ビジネスマンの父より息子への30通の手紙 新潮文庫