『ザ・ロード』
コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』(ハヤカワepi文庫)を読みました。映画も現在公開中です。
「空には暗雲がたれこめ、気温は下がりつづける。目前には、植物も死に絶え、降り積もる灰に覆われて廃墟と化した世界。そのなかを父と子は、南への道をたどる。掠奪や殺人をためらわない人間たちの手から逃れ、わずかに残った食料を探し、お互いのみを生きるよすがとして。世界は本当に終わってしまったのか? 現代の巨匠が、荒れ果てた大陸を漂流する父子の旅路を描きあげた渾身の長編。ピュリッツァー賞受賞作。」
“事後”の世界。太陽も、その光を滲ませるだけの、色彩を失くした世界。父と息子は、ひたすら南を目指します。空き家があれば入り込んで食料を探し、シェルターに大量の食料を見つけても、そこに長く留まることは別の流浪者や、徒党を組む暴漢たちの標的になる危険性があるために、速やかに離れなければいけません。
他の生存者たちの生き延びようとする意志は、人の中の獣性を剥き出しにし、それは人肉食にまで至ります。
その環境下、かつての世界を知る父親は、二人が生き延びるためには自らが鬼にならなくてはいけないと覚悟し、他人を助けることを拒み、自分たちの命を脅かす敵を殺すことも躊躇いません。
一方の息子。“事後”の荒涼とした世界しか知らないその息子は、父親とは逆に、困窮している他の流浪者を助けられない自分の非力さに涙を流します。
高潔。それは父親に、その息子の父親であることの誇りを感じさせます。そして、息子もまた、父親の厳しい態度が、自分たちが生き延びるために正しいのだと理解しています。ただ、心が涙を流すのです。
二人の旅に、明確なゴールはありません。
その物語の最後。誠実に生きていれば、それを見てくれている人がきっといる。それは、自らの不満を他人の、周囲の所為にしがちな弱い私たちに、「強くあれ」と語りかけているようです。
- 作者: コーマック・マッカーシー,黒原敏行
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/05/30
- メディア: 文庫
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