前口上、再び

ブログを始めて一年が経ちました。半年前のように記念企画をと考えながら、何を書いたら良いかと考えているうちに日数が過ぎてしまいましたが、折角なので……。

私にとって最高の小説は、三島由紀夫の『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』から成る“豊饒の海”四部作です。“手弱女(たおやめ)ぶり”を描いた『春の雪』、“益荒男ぶり”を描いた『奔馬』の素晴らしさは、私がここで拙い言葉で表現するのが躊躇われます。そして、『暁の寺』で物語性が希薄になり、小説としての完成度が著しく落ち、『天人五衰』では、登場人物のただただ無残な人生が描かれます。

三島由紀夫は、その死が劇的であり過ぎて、遺作となった“豊饒の海”は、純粋に作品として評されることがほとんどないという印象があります。

読者が作家の創作の軋みを読み取ることは、三島由紀夫にとっては不本意かもしれませんが、その作品の破綻も含めて、私は“豊饒の海”が大好きです。

手元に『天人五衰』(昭和46年5月30日:第四刷)があり、佐伯彰一村松剛の「認識と行動と文学」と題する対談を収録した冊子が挟み込まれています。時期的に、三島由紀夫の死の衝撃が残る頃のものです。同時代の空気が感じられるものであり、これを何回かに分けてご紹介します。