ワン・ツーの先

ボクシングの基本はジャブからストレートのワン・ツーです。プロテストのチェック項目の一つにも、ワン・ツーがきちんと打てているか、とあります。

基本は大切ですが、実際に相手と向き合った時、意識がワン・ツーを打つことで止まっていては、まずパンチは当たりません。

“返しの左”が重要です。

ワン・ツーの基本動作については以前書きましたので、省略しましす。今回は、“ツー”の後。繰り出した右手を元の位置に戻す動きに連動して、左フックを放つのです。

その動き、身体の捩れを真上から見たと思ってください。ワンの左ジャブで僅かながら右へ、ツーの右ストレートで思い切り左へ、中心線(頭)を軸に身体は捩れます。そして、スリー。返しの左フック。捩れた身体が元の体勢に戻ろうとする筋肉のバネの力を利用しての一撃。腕力に頼らない、身体の回転を利用したパンチです。

この左の返しを起点にして、連打からKOという流れになることが往々にしてあります。「振り返ってみて、あの返しの左が効いた」と。

今日、亀田大毅井岡一翔、それぞれの試合を観て、この返しのパンチが少なかったように思いました。ワン・ツーを基本に、時折り、ワン・ツー・スリーと入れていくことで、リズムに変化を与え、相手を幻惑する。その先にKOがあります。

ボクシングには騙し合いの要素があります。どんなに威力のあるパンチでも、相手に読まれ、待ち受けられては意味がありません。殴り倒してやろうという気迫は大切ですが、それだけではない“妙味”がボクシングという競技にはあると思います。

大毅と井岡には共通点があります。ともに、周囲がスピード出世を目論んだ(目論んでいる)という点です。

作家の北方謙三は若い頃、純文学を志していましたが、エンターテインメント小説に方向転換しました。そして、ずっと第一線で活躍できていることの理由の一つに、その下積み時代の修行を挙げています。それが無い大毅と井岡には、ある種のひ弱さ、脆さを感じます。