逆風車の理論

青木真也川尻達也に完勝しました。私たちは似た試合を最近観ました。ヒュードルVSヴェウドゥムです。

互いの良さが存分に発揮され、倒し倒される攻防。観る者の感情を揺さぶる、ビジュアル的に“わかりやすい派手さ”。大歓声の中で決着し、大きな温かい拍手の中で選手が互いに抱き合って健闘を称えあう。観客もお腹いっぱいで大満足。興奮の余韻がいつまでも冷めない。

ともにそのような展開になる以前の、短時間での決着。あるのは勝者と敗者のコントラストのみ。

アントニオ猪木の闘いぶり。相手に攻めさせるだけ攻めさせて、存分にその良さを引き出しながら、最後にはそれらをすべて呑み込んで自分が勝つ。人呼んで“風車の理論”。

相手の良さを出させないこと。勝負ごとで、これは大切な要素です。負けた選手は、「自分はまだ何もしていない」というフラストレーションとともに、その場を後にします。勝った者の総取り。

青木は見事な試合をしました。桜井“マッハ”速人戦では、タックルから相手を転がすことに成功したものの、そこから逆転を許しましたが、今回の川尻戦では、身体を回転させて脚を抜きにかかった相手の動きにも上手く対応し、寝技地獄から逃がしませんでした。青木の、アントニオ猪木とは異なる強さのイメージが詰まった試合でした。

青木の強さと弱さの両方が感じられた試合でした。自分の思い描いた展開の中では無類の強さを発揮しますが、そうはならなかった時。主導権を相手に握られた展開になった時、そこからどう挽回していくか。勝つ時は圧勝するが、負ける時は何もできずに負けるべくして負ける。そんな脆さがつきまといます。

今回の試合は、DREAMのタイトルマッチでありながら、チャンピオンの青木がSTRIKE FORCEで惨敗した後ということで、青木と川尻のどちらが勝っても、STRIKE FORCEにリベンジする選手を決める試合という側面が強くありました。端的に言えば、青木にとって、今回の試合は“準決勝”に過ぎないのです。“決勝”は再びSTRIKE FORCEのケージです。

先日、コメント欄にて、美空氏がヒョードル最強論について非常に示唆に富むお話をしてくださいました。そこで氏は何人かの選手の名前を挙げられていましたが、青木はまだまだそこに名を連ねるところまで行っていません。つまり、まだ選手として、一人の人間として伸びる余地があるのです。

個人的に好きではない選手ですが、青木の戦い模様の向こうに“何か”を見たいと願う自分がいます。