つかこうへい

つかこうへいが亡くなりました。私はそれほど熱心な読者ではありませんでしたし、そもそも、その舞台を観たことがありません。それでも、いて当然の人がいなくなった感覚があります。

『小説熱海殺人事件』での、取り調べている容疑者を諭す、刑事の台詞。世の中の価値観を根こそぎ180度ひっくり返すような、ナンセンスの極み。脱力した笑いの後に、じわじわと胸に迫るものがあります。

『鎌田行進曲』では、銀ちゃんが大部屋俳優の後輩たちに食事を奢った時の怒り。哀しみに満ちた滑稽さ。そして、自身の生まれを、人間の心の貧しさを嘆く、文字通り魂の叫び。

『弟よ』で、大学に裏口入学したことを妹とその同級生に糾弾されながら、その誠実な態度に、いつしか敬意を持たれる“弟”を描いた場面。

『娘に語る祖国』は、ここで私が贅言を費やすまでもありません。

小説を書く際、原稿用紙にではなく、大学ノートに横書きに書きなぐったという逸話には、「創作は、当人がその気になれば、いつでもどこでもできるんだ」という反骨心を感じます。

不条理を描いて、いやらしくない。これこそ才能です。

後継者は現れないでしょう。戯曲であれ小説であれ、それらは“つかこうへい”というジャンルでした。