『強欲資本主義』神谷秀樹

自分がどのような社会に生きているのか。その関心を持つことは動物としての本能であり、それを失くすことは緩やかな死そのものです。

ちょうど一年前、『すべての経済はバブルに通じる』(小幡績著・光文社新書)を読みました。そこで著者は、資本を持つ者とそれを運用する者が別の人間であることの歪みに触れていました。

運用する者は様々な金融商品を売り買いして利益を上げることを職業にしています。十分な利益を上げられなければ、職を失うことになります。そのため、他人が少しでも利益を上げている相場があれば、そこに参戦せざるを得ません。そして、その相場が下落傾向に入る直前に売り抜けて逃げ出すことを狙います。チキンレースそのものです。

まるで癌が転移するかのようにマーケット内に、今回はここ、次はあそこという具合にバブルを生んでは潰して動き回ります。著者はこれを「キャンサーキャピタリズム」と呼んでいます。

すべての経済はバブルに通じる (光文社新書 363)

すべての経済はバブルに通じる (光文社新書 363)


神谷秀樹の『強欲資本主義 ウォール街の自爆』(文春新書)は実際にウォール街で働く著者の見聞録です。サブプライムローン問題はそれだけを抜き出して論じられるものではありません。人間としての誠実さや共感が失われた“強欲”は、人として破廉恥です。

本来、金融資本は、産業資本をアシストする役目を負っていました。それが逆転した歪な、行き過ぎた資本主義を著者は批判しています。もう一度原点に返ろうと提唱しています。

強欲資本主義 ウォール街の自爆 (文春新書)

強欲資本主義 ウォール街の自爆 (文春新書)


この二人が対談した本があります。『世界経済はこう変わる』(光文社新書)です。ここで二人が語っているのは、他人の価値観に頼るのはもう止めようということです。自分の心と頭で考え、自分の足で歩こうと言います。日本の伝統や文化、DNAレベルで刻まれた国民性を大切に、唯一無二の、自分たちの国を作ることが大切と説きます。

世界経済はこう変わる (光文社新書)

世界経済はこう変わる (光文社新書)


他人が用意した土俵で、他人が作ったルールに則って戦っても勝ち目はありません。日本の携帯電話が“ガラパゴス”と揶揄されるほど世界市場で競争できずに狭い日本国内だけで急激な進化を遂げているのも、そもそものスタート時点で世界基準(規格)を獲得するレースに負けたからです。

私には運用できる資産はありません。しかしながら、上記の三冊の本を読んで、他人と同じであることに安心するような精神の弛緩を戒め、恥を知る謙虚な心持ちの尊さを再確認できました。ぐぐっとレベルを引き下げたものではありますが、とても良い読書ができました。