『大いなる眠り』

“大いなる眠り”とは、作品の最後で言及があるように“死”を意味します。死んだ者には一切が無。死者の眠りは生きている者に冒されることはありません。

しかし、旧訳版を読んだときにも思いましたが、頭脳明晰で判断力も衰えていないのに、肉体の老いによって、屋敷から出ることもできず、その身をベッドに横たえている老将軍の静かな佇まいこそ、“大いなる眠り”と評するに相応しい。

老将軍が権謀術数をめぐらせているわけではありません。それなのに、主人公のフィリップ・マーロウをはじめ、登場人物は皆、老将軍という中心の周囲で踊っているかのようです。ほとんど登場しないのに、その圧倒的な存在感。

それに挑むマーロウが、何と三十三歳。作品の世界観及びキャラクターの完成度と比較して、その若さに驚きます。

大いなる眠り

大いなる眠り