『暴力の教義』

ボストン・テランの『暴力の教義』はメキシコ革命を背景に、父親と息子の奇妙な道行、葛藤が血と暴力とともに描かれます。

台詞でも地の文でも、登場人物の心理描写はおろか、その行動に至った理由すら書かれません。打海文三とはまた異なる、行動の羅列。

感情移入を拒否する物語の、その末に訪れる魂の救済。

“許す”ことが強さだと云います。自分自身を呪縛から解放することだと。

しかし、私が許したとして、相手が、そもそも自分が罪深いことをしたという自覚もなく、「どうして自分が許されなければいけないのか」と言うなら……。

それは滑稽なものでしょう。私は道化でしょう。

それすら越えて“許す”のだというのは、理屈ではわかります。

“許せる”というのは幸せなことです。だからこそ、その道程は物語になるのでしょう。

暴力の教義 (新潮文庫)

暴力の教義 (新潮文庫)