魂の救済の物語

夢枕獏は、小説に求められるものとして、シンプルに「面白いこと」と断言します。エンターテインメントとして書かれた小説を読み終えて、「嗚呼、面白かった」と本を閉じるのは正当な評価でしょう。

その“面白い”という基準を充分に満たして、それだけで終わらない作品を読む。それは、読者が自分の人生で培ったもの、つまり自分の全存在を賭けて作品と対峙することです。

月村了衛の『機龍警察 暗黒市場』は、エンターテインメントの衣装をまといながら、人間の在り方を問いかけます。

国同士の駆け引き、その国の中での権力闘争、セクショナリズム。“正義”という言葉が、利害が衝突する相手を否定するための道具でしかない人の世の汚辱。踏み躙られる個人の人生と尊厳。それでも残る、一片の希望。

それをエンターテインメントの形に昇華してみせる筆力は、他のベストセラー作家と比べても遜色ありません。

この作家の作品は、文庫化を待つことなく、ハードカバーの単行本で追いかけます。

機龍警察 暗黒市場 (ミステリ・ワールド)

機龍警察 暗黒市場 (ミステリ・ワールド)