今なお船戸与一④

船戸与一豊浦志朗の名前で書いている「ハードボイルド試論、序の序―帝国主義下の小説形式について」が収められている『ミステリーの仕掛け』(大岡昇平編)を、これまたネットで購入しました。『レイモンド・チャンドラー読本』と同様に、市営図書館に蔵書があって、読んだことはありましたが、やはり手元に置いておきたいというコレクターの血が騒ぎました。

以前にも書きましたが、ハードボイルドの定義は作家の数だけあります。それは、作家の苗字をつけて○○ハードボイルドと表現することからも明らかです。

そのハードボイルドを、個人の趣味嗜好からではなく、歴史や時代背景から定義しようという試みは、この作家の誠実さの表れでしょう。

そのテキストになるのが、ダシール・ハメットの『血の収穫(赤い収穫)』です。

この後、船戸与一が『山猫の夏』を書くことになるのは、「ジャーロ」でのインタビューでは偶然の産物のように語っていますが、実は必然だったのだろうと思えます。

そして、船戸ハードボイルドは、この試論を裏切ることなくハードボイルドであり続けました。