『手のひらの幻獣』

三崎亜記は、デビュー作の『となり町戦争』以来、現実と似ていながらも微妙に違う、架空の国を舞台にした作品を書き続けています。

隅々まで作家の精緻な想像力が行きわたった“もう一つの世界”。そこには、わたしたちの暮らす現実世界とは異なる価値観があり、その世界観が強固であるがゆえに、読者は自分たちが信じる価値について、あるいは常識について根源的に問いかけられることになります。

それが絶対だと、どうして言えるの?

二つの世界の相克。それが『手のひらの幻獣』では激突になっています。これまでの作品よりも、設定でもエピソードでも明らかに現実の社会を意識したものになっています。

フィクションだからこそ描ける真実。その根底にある叛骨心(あえて反ではなく叛を使いたい)が撃つ悪の院の奥の奥。

その作風に幻惑されては本質を見誤る、もっと多面的に評価されて然るべき、素晴らしい作家です。

手のひらの幻獣 (集英社文庫)

手のひらの幻獣 (集英社文庫)