まだまだ船戸与一

日本冒険作家クラブ編のアンソロジー『幻!』に収録されている、船戸与一の『エドワルド・ファブレスの素描』を読みました。スペイン内戦を取材する船戸与一の、“わたし”という一人称で語られる作品です。

作品の中に、スペイン内戦当時の兵士の手記が船戸与一が読むという体裁で挟まれるなど、技巧を凝らしており、エッセイやルポルタージュではありません。と同時に、小説と呼ぶには違和感があります。

しっくりくるのは、五木寛之がデビュー当時に自分の作品を評して使った、「読み物」という言い方です。

他の作品とは少々毛色が違いますが、ハードボイルドの作法に従い、船戸与一らしい作品になっています。

そして、『午後の行商人』に通じるラストと、その余韻。

船戸与一というと長編が語られることが多い作家ですが、短編も切れ味が抜群です。

船戸与一の、どこまでも船戸でありながら、ちょっと違う顔が見られたという感じで、とても嬉しい読書でした。