作家の怒り

この震災と、その後の事態の推移について、私が知るかぎり船戸与一は発言をしていないはずです。「文藝春秋」の増刊号にも名を連ねていません。

最新作の『雷の波濤 満州国演義7』は書き下ろし。つまり、私たちが右往左往し取り乱して言葉を乱発している間、船戸はこの作品を書き続けていたということです。

この作品に横溢するもの。それは“怒り”です。読んでいる間、ずっと船戸に睨みつけられているような迫力を感じました。

個々の場面について、現在の日本と重なり合うことが多くあります。しかし、単純に過去と現在を同一視しているのではありません。人は同じ過ちを犯し、歴史は繰り返すなどという一般論を踏み越えて、その怒りは根源的で激烈です。

船戸は絶望もしていなければ、慨嘆もしていません。そんな感傷に浸るようなヤワな作家ではありません。

船戸が、この世の地獄と絶望と、もしかしたら希望をどのように綴るのか。覚悟を持って見届けます。

雷の波涛―満州国演義〈7〉 (満州国演義 7)

雷の波涛―満州国演義〈7〉 (満州国演義 7)