完璧なる水晶

五條瑛の『パーフェクトクオーツ』を読みました。現実の東アジア情勢を下敷きにした“鉱物”シリーズの第三作です。

この作品の前に発売された『スパイは楽園に戯れる』が、『パーフェクトクオーツ』が改題されたものとされていましたが、それは著者と出版社の都合によるもので、そちらは前日譚の番外編という位置付けになり、このオンデマンド本が正規のものということのようです。

ジョン・ル・カレの系譜に連なるエスピオナージュ。派手な活劇に頼らず、日常業務の如き地道な調査と思索が綴られます。それが読み応え十分な物語になるのは、これは作家の視線の確かさと読ませる技術の高度な融合によるものです。

これまでの作品よりも実際に起きた事件と密接に繋がった内容です。そこで繰り広げられる、あったかもしれないと思わせる諜報戦の闇。

そこに主人公の葛藤に満ちた人生をリンクさせ、父親と息子の物語としても成立させた著者の力量に舌を巻きました。

Perfect Quartz 完璧なる水晶・葉山編

Perfect Quartz 完璧なる水晶・葉山編