自負と謙虚

自分の周囲の人たちは、ただ毎日をやり過ごしているだけで、自分のように物事を(深く)考えていない……、などと思ったら大間違い。話さないからといって考えていないわけではなく、そこを見誤ってはいけません。

ネットの普及とともに、掲示板、ブログ、フェイスブックツイッターと自己主張の場は変遷していますが、それらは一つのことを教えてくれているのではないでしょうか。

自分が考えている程度のことは、他人も考えているもの。

さらに、自分よりも該博な知識を持つ人、より説得力のある発言も多く、自分が特別な存在ではないことを思い知らされます。

去年の今頃はランドセルを背負っていた、中学一年生たち。森絵都の『クラスメイツ』は、彼ら彼女ら二十四人のクラスメイトを順に追った連作短編集です。

誰もが、主人公であり、同時に脇役でもあります。そこに優劣はなく、その繋がりを社会と呼びます。自負と謙虚。その二つ絡まりて、我が心にあり。

視点の置き方が厳密で、脇役の子の内面は主人公の子の感想や想像としてしか描写されません。ですので、その脇役の子が主人公の話になると、既に読んだ話すら印象を変え、全体を通して立体的な物語になります。

自分の気持ちを明確に言葉に出来ない。上手く伝えられない。そこで生じる、すれ違い。友人の意外な一面を見ての驚き。その未熟さが愛おしい。

本は、読む時期や立ち位置によって読み方が違ってきます。今回、わたしの心のベクトルは、解説の二人が語るように自分が中学一年生だったころを思い出しながらというように過去には向くことはなく、未来に向かいました。七年後、“あのコ”はこの物語の登場人物の一人になるのだと。

クラスメイツ〈前期〉 (角川文庫)

クラスメイツ〈前期〉 (角川文庫)

クラスメイツ〈後期〉 (角川文庫)

クラスメイツ〈後期〉 (角川文庫)