筋を通す

C.J.ボックスの、猟区管理官ジョー・ピケットを主人公としたシリーズの番外編、脇役のネイト・ロマノウスキを主役にした『鷹の王』を読みました。

評論家の北上次郎はネイトを絶賛していますが、以前このブログで書いたように、わたしは違和感を抱いていました。地域密着の公務員のジョーと、元特殊部隊の隊員で鷹匠のネイトは住む世界が異なり、二人のリアリティには齟齬があると。

そのネイトの物語『鷹の王』は、見事な作品に仕上がっていました。血と暴力を描きながら清冽。これまでの作品で彼の過去は明確には語られてきませんでした。ただ、彼の正義感故に窮地に陥り隠遁者のような生活を送っているのだろうと、読者は想像するだけでした。それが明かされる今作は、あの同時多発テロ事件を背景に持ち、現実世界と密接に繋がり、それはジョーが暮らす日常とも接続され、シリーズとしての筋が通りました。

街中で銃が売られ、それらによる乱射事件が後を絶たないアメリカと、そうではない日本では人が持つ現実感に差があるのかもしれません。

筋を通すこと。それを疎かにしては生きられないジョーとネイト。それを愚かと笑う者こそ愚か者。現代の西部劇は、その厚みを増し、ますます目が離せないシリーズになってきました。

鷹の王 (講談社文庫)

鷹の王 (講談社文庫)