芸術の価値

ビル・エモット。経済紙「エコノミスト」の編集長を務め、著書の『日はまた沈む』で日本のバブル経済の破綻を予言したとして有名です。数年前の著書『日はまた昇る』は日本経済の復興を予言したという、今考えると多分に願望を込めたキャッチフレーズがついていました。ビル・エモットはグローバルスタンダードの信奉者にして推進者です。競争がより良い利益をもたらすと言います。

『20世紀の教訓から21世紀が見えてくる』の中で、エモットがおそらく意図的に無視していることがあります。それは消費者=労働者という図式です。エモットは競争にさらされることでサービスが向上し、生活がより良くなると書きますが、そのサービスを受ける側もまた、時と場所を変えれば、製造、流通、販売のサービスを提供する側になります。

その競争によって人間らしい生活を奪われるマイナスと、過剰に快適なサービスを受けるプラスは果たしてつりあうものなのでしょうか。

経済システムに組み込まれた生活の中で私たちが最も重要視されるのは“消費者”としてです。労働は“消費”をするための資金を得る手段に過ぎません。優先順位はまず消費、次に労働です。そしてより良い消費とより過酷な労働は一枚のコインの裏表です。

このメビウスの環から抜け出せないまでも、はみ出したもの。それが芸術です。映画、舞台、絵画、音楽、書物。その他何であれ、人の手によって商品となる以上は無垢ではいられませんが、その世俗の垢を身にまとってなお輝くのが芸術です。

芸術の価値とは何か。それは喚起する力です。視る者の中にエネルギーを生み出す力です。

これが無くて、どうして無味乾燥でない人生を送れるでしょうか? 有名無名を問わず、すべての芸術家とそれを志す人たちにエールを送ります。