私的・船戸与一論 その八

イギリスの歴史家・思想家・政治家のジョン・アクトンの発したテーゼ。

「権力は腐敗する。絶対的(専制的)権力は絶対に腐敗する。」

この腐敗する権力が正史を司る。そして対抗勢力がその権力を打倒した時、自身もまた権力となって腐敗する。

硬派はこの腐敗とは無縁だ。何故なら、その死によって舞台から去っているから。

「ヒトは同じ過ちを繰り返す」とはアニメ「機動戦士Zガンダム」のシャア・アズナブルの台詞だが、権力の腐敗とその打倒が輪廻の如く繰り返されるならば、いつの時代も人のすることに違いが無いのならば、船戸作品はジャーナリスト的視点も含めた同時代性と普遍性を併せ持つと言える。

“その五”で引用したように、船戸与一大藪春彦作品の主人公を神々しいと評したが、愚かさに満ちた人の世で、船戸の描く硬派もまた神々しい。船戸作品を語る際に叙事詩、神話、英雄譚という言葉を使うのも、あながち大げさではない。