私の好きな作家:氷室冴子

氷室冴子と書かなければならないことがとても悔しく、残念です。
読み始めたきっかけはスタジオジブリが制作したテレビアニメの『海がきこえる』を観たことでした。すぐに単行本を買いに走りました。この高知を舞台にした高校生の物語は、読者をはらはらどきどきさせようというあざとさも無く、ただただその日常を描いた内容でありながら、胸苦しさに捕らわれページを繰る手が止まりませんでした。氷室冴子の筆力を感じさせてくれる作品です。

その氷室冴子に、『なぎさボーイ』、『多恵子ガール』、『北里マドンナ』という作品があります。この三作は登場人物が共通の連作長編の形を取っています。

雨城なぎさ、原田多恵子、森北里、麻生野枝は中学からのグループで、同じ高校に進学します。しかし、そこに一人、異物のような女の子が登場します。名前は槙修子。彼女は別の中学で陸上部に所属していたことから、同じように陸上をしていたなぎさと知り合いますが、中学二年、三年の陸上大会で、たった二回しか顔を合わせていません。それでも互いに惹かれあいます。
修子はただひたすらなぎさだけを見つめ続けます。恋人ではなくてもなぎさと互いに好意を感じあっていた多恵子は苦しみます。そして修子が気になりだした様子の北里に野枝が言います。

北里「野枝は、きついよ。オンナって、自分のテキにならないコには優しくて、自分のテキになるコには、きつい見方をするからな」

野枝「オンナをみくびってるわね。槙修子みたいなのは、自分から進んでテキをつくってるの。その裏にあるものといえば、ナンバーワンでなきゃ気がすまないコンプレックスなのよ」

北里「ナンバーワンって、なんだよ。槙は、ガリガリの秀才ってわけじゃないぜ」

野枝「だれかにとって、ナンバーワンでいたいってことだって、あるでしょ。自意識過剰もいいとこよ。だれだって自分が一番だと思いたいけれど、現実はそうじゃないんだから、ちゃんと認めなきゃ。うっとうしいったらありゃしない」

「これを読んでる男性諸君、女(の子)っていうのは、そうそう男に都合の良いものじゃないんだよ」

氷室冴子の作品を読んでいると、にこっと笑いながら、こう釘を刺されているように感じます。隠し味のように仕込まれた毒。ジュニアノベルに分類されますが、大人が読んでも鑑賞に堪える作品です。