2009-01-01から1年間の記事一覧

私的・船戸与一論 その六

船戸与一の、己の創作についての言葉。「叙事の積み重ねが叙情を凌ぐ」大辞林によると、“叙事” 事件や事実をありのままに述べること。“叙事詩” 神話・伝記・英雄の功績などを物語る長大な韻文。“叙事的演劇” 観客の感性に訴えようとする演劇に対して、理性に…

私的・船戸与一論 その五

大藪春彦といえば言わずと知れたハードボイルドの先駆者にして巨星として、その死後も輝きを失っていない。その大藪の『復讐の弾道』(光文社文庫)の解説を船戸与一が書いている。「大藪春彦は主人公たちに、たとえば伊達邦彦にかならず次のような性格を附…

私的・船戸与一論 その四

日本においてハードボイルドと言えば、船戸が「ハードボイルドを堕落させた」としたチャンドラーに連なる系譜が主流だ。大沢在昌はハードボイルドを「惻隠の情・傍観者のリリシズム」と定義する。 原籙は「私にとってハードボイルドは文体がすべて」と言う。…

私的・船戸与一論 その参

『山猫の夏』の弓削一徳、通称山猫は物語の最後に命を落とす。 この作品は作中で名前を与えられない“おれ”という日本人青年の一人称によって語られる。山猫の言動はこの“おれ”が見聞きしたという形でのみ語られる。 “おれ”は最初、安酒場のバーテンをしてい…

私的・船戸与一論 その弐

やはり豊浦志朗名義の作品に『叛アメリカ史』がある。「正史-強い者が勝つ。力学が法則にすり変わる。勝った者は正しい。叛史は正史の対極にある概念である。正史が設定した座標軸(権力が自らを正当化するために並べた価値観)をぶち壊すことを目的としたヴ…

私的・船戸与一論 その壱

船戸与一は大略次のように書いた。「冒険小説、国際謀略小説。何と呼ばれようと、自分は一貫してハードボイルドを書いてきた。」では船戸の言う“ハードボイルド”とは何なのか? すべての作家は処女作に帰るという。換言すれば処女作の中にその作家のすべてが…