私的・船戸与一論 その六

船戸与一の、己の創作についての言葉。

「叙事の積み重ねが叙情を凌ぐ」

大辞林によると、

“叙事”
事件や事実をありのままに述べること。

叙事詩
神話・伝記・英雄の功績などを物語る長大な韻文。

“叙事的演劇”
観客の感性に訴えようとする演劇に対して、理性によって批判的に判断させようとする演劇の方法。

行動のみを志す硬派を描く時、硬派の行動そのものが主役になる。人間としての硬派はその器に過ぎなくなる。純粋な行動とは純粋な精神に他ならない。それは俗人にはたどり着けない場所。

その時、硬派の物語は単なるストーリーではあり得ない。それは英雄譚であり、神話であろう。船戸は現代を舞台とした日本武尊の物語を綴っているのか。

ひと口にハードボイルドとカテゴライズされた中に置いた時、船戸作品が異彩を放つのもむべなるかな。