2009-07-12から1日間の記事一覧

私的・船戸与一論 その四

日本においてハードボイルドと言えば、船戸が「ハードボイルドを堕落させた」としたチャンドラーに連なる系譜が主流だ。大沢在昌はハードボイルドを「惻隠の情・傍観者のリリシズム」と定義する。 原籙は「私にとってハードボイルドは文体がすべて」と言う。…

私的・船戸与一論 その参

『山猫の夏』の弓削一徳、通称山猫は物語の最後に命を落とす。 この作品は作中で名前を与えられない“おれ”という日本人青年の一人称によって語られる。山猫の言動はこの“おれ”が見聞きしたという形でのみ語られる。 “おれ”は最初、安酒場のバーテンをしてい…

私的・船戸与一論 その弐

やはり豊浦志朗名義の作品に『叛アメリカ史』がある。「正史-強い者が勝つ。力学が法則にすり変わる。勝った者は正しい。叛史は正史の対極にある概念である。正史が設定した座標軸(権力が自らを正当化するために並べた価値観)をぶち壊すことを目的としたヴ…