映画『ウォール街』

金融危機が発生する前。
安価な労働力をアジアに求めた結果、産業の空洞化を来たしつつある状況を憂いて、何人もの経済評論家からこのような意見が出されました。

“日本は投資立国を目指すべきだ”

この言葉を聞いた時、映画『ウォール街』を思い出しました。オリバー・ストーン監督の作品で、マイケル・ダグラスがアカデミー主演男優賞を受賞しました。

若い証券マンのチャーリー・シーンは、マイケル・ダグラス演じる有名投資家に憧れますが、インサイダー取引をはじめとする違法行為も辞さないやり方に葛藤を抱え、それでも引きずられていきます。
ある日、マイケル・ダグラスに見切りをつけられそうになったチャーリー・シーンは、自分の父親が整備士として勤務する地方の航空会社の内部情報を漏らしてしまいます。その会社は、ある裁判を抱えていたのですが、会社側に有利な判決が出る見通しが立ったということを。
従業員を前に、自分が最大株主となって会社を再建させると熱弁を振るうマイケル・ダグラス。それを聞いてほとんどの社員が頷く中、チャーリー・シーンの父親(演じるのは、実の父親のマーティン・シーン)は反対します。マイケル・ダグラスは会社をばらばらに解体して売り払うつもりだと。
父親の無理解をなじるチャーリー・シーン。しかし、結果は父親の言ったとおりでした。
自責の念にかられた彼はマイケル・ダグラスを告発することで父親の働く会社を守ろうとしますが、それは同時に自分が共に犯した罪を認めることでもありました。
そして、父親は息子に語りかけます。

「他人が作ったものを右から左に動かして儲けを手にするのではなく、自分の手で何かを作ることに誇りを持てるようになれ」

金融危機を経て、投資立国云々を言う人はいないでしょう。専門家といってもそんなものです。

働くとは何なのか?
お金とは何なのか?
価値とは何なのか?

過ぎたるは及ばざるが如し。執着し過ぎても、過剰に遠ざけても、振り回されているという意味では同じことです。これらと適度な距離を保てるということは、大人であることの大切な要素かもしれません。