2017-01-01から1年間の記事一覧

この夏も

微々たる金額ですが、「あしなが東日本地震津波遺児基金」と「国境なき医師団日本」に寄付をしました。世の中には、交通事故で親をなくしたり、親が親の務めを果たすことが出来ず離れて暮らすことを余儀なくされたり、自らの責任でなく不遇な環境に置かれ、…

こんどは素直に

個人的な夏の文庫フェア。テーマはずばり“青春”です。人間の一生は青春・朱夏・白秋・玄冬の四つに分けられます。確かに、振り返って青春の時期が過去のものになったことを実感するときがあります。しかし、心の奥底にしまってあるだけで、消えてなくなった…

ちょっと意地悪な

個人的な夏の文庫フェア。テーマは“ちょっと意地悪な”です。入手が困難だったり、読むのが大変だったり。でも、ちょっと背伸びをする読書も良いものです。打海文三の『されど修羅ゆく君は』と『愛と悔恨のカーニバル』は続けて読んでほしい二作です。後者の…

バカな子ほど可愛い

今年も庭の一画に畝を作り、さつまいもの苗を植えました。ほぼ一か月が経ち、順調に育っています。苗の数は全部で十本。そのうちの一本は色も薄く、細くて弱々しいものでした。だからといって捨ててしまうのはもったいなく、あるいは心苦しく、他のものと同…

まずは知ろう

わたしたちは、東南アジアやASEANという言葉で一括りにしてしまいますが、そこにはいくつもの国、民族、宗教、そして人々がいます。しかし、その人たちは互いの違いを違いと認めつつまとまろうとしています。著者は、それを「多様性の中の統一」として、本書…

読んで疲れた

青木理の『日本の公安警察』を読みました。著者があとがきで「巨象の背中を撫でただけに過ぎない」と書いているように、この一冊ですべてがわかるとは思っていませんでした。それでも手に取ったのは、その一端に触れるだけでも無駄にはなるまいと思ったから…

牛に引かれて

長野は善光寺に行って来ました。予定よりも早く到着したところ、偶然にも「お数珠頂戴の儀」が始まるところで、幸運にも頭を撫でていただきました。本堂では法要が営まれており、その徳と実のある空気に感動しながら浸りました。それを横目に通り過ぎて「お…

続:怖い本

不満を刺激されて熱狂し、他国を侵略することを奪われた権益の回復で当然のことと支持し、状況が悪化すれば政治的指導者の言葉を信じなくなる。この大衆の主体性の無さを、当時のドイツ国民に限った特性と切り捨てる人はいないでしょう。半藤一利は、ある著…

怖い本

わたしが本を読むのは、知らなかったことを知るのが楽しいからです。それは知識であったり、物事の見方や解釈であったり、つまりは新しい世界を知るということで、手に取る本が小説であれノンフィクションであれ、同じです。歴史小説を読む場合も、現代に通…

閉塞

『機動戦士ガンダム サンダーボルト』、素晴らしい作品です。しかし、そうであればあるほど、この作品がオリジナルなものとして世に出ることが出来なかったこと、ガンダムの名を冠にしなければ企画が通らなかったことに、漫画ないしアニメ業界の閉塞を感じざ…

日常のハードボイルド

探偵小説で、探偵は依頼を受けて人を探し、その道程が物語となります。その人探しを自分の(仕事の)ためにする雑誌編集者を主人公にした“日常のハードボイルド”というコンセプトが秀逸です。古い特撮作品を扱う雑誌の取材ということで、その人探しのベクト…

我がこと

ネットも含めて媒体を問わず、「他人より気の利いたことを言う」ことに重きを置く風潮があります。それは、芸能人がコメンテーターの役割も割り当てられるようになったことに顕著です。高村薫が時事的な評論を書くようになった当初、その内容について否定的…

物語る

このゴールデンウィークは横溝正史週間にしようと、二冊立て続けに読みました。謎解きを主眼とするミステリーの醍醐味は終盤での読者を驚かせる謎解きで、物語のすべてはそこに収斂します。そこに至る作中の出来事はすべて最後の驚きのためにあるのであり、…

スタートの春

友人が結婚します。知り合ったのは中学生のとき。しかし、同じクラスになることもなく、互いに顔と名前を知っている程度でした。付き合いが始まったのは高校一年から。同じクラスになったのがきっかけでした。あれから何年……。氷室冴子の小説『海がきこえる…

肯定の物語

この作家が描くのは生きることの肯定です。正解を求めるのではなく、真摯に、凛々しく生きることの。舞台となるのは、現実とは価値観のずれた(日本を思わせる)架空の国(の社会)。読者は虚心坦懐、自分の中の常識も非常識も捨てて、すべてを等価値に受け…

問うこと

正しい答えを得るためには、正しく問わなければなりません。正しく問うことが出来れば、正しい答えはもう指呼の間。その問いを、あの隆慶一郎が怖くて小説を書くことが出来なかったと畏れた小林秀雄に直接ぶつけるのには勇気が要ります。でも、ぶつけずには…

春の夜更けに

見上げれば朧月。キミはもう夢の中。こんな曲が胸に心に染み入る春の夜。

応援します

わたしはボクシングを習っていますが、プロを目指してのことではありません。通っているジムには、プロ選手もいれば、ライセンス取得を目指している人もいますが、そうではない人も大勢います。もしも、ボクシングジムに通うことが許されるのはプロを目指す…

2.26事件

録画しておいたNHKアーカイブス「NHK特集『戒厳指令…交信ヲ傍受セヨ 〜二・二六事件秘録〜』」を見ました。この番組が放送されたのは昭和54年2月26日、2.26事件が起きた昭和11年2月26日から43年後のことです。昭和54年が、“あの”2.26事件がたった43年前に起…

芸術の春

「東山魁夷 唐招提寺御影堂障壁画展」に行きました。絵心の無さには自信があります。専門知識もありません。そんな素人も、本物の前にはひれ伏しました。展示室の出入り口には透明なビニールのカーテンが引かれ、美術館側の本気度が窺えます。襖絵を展示する…

『キャスターという仕事』

正しい答えを得るためには、正しく問わなければいけません。ずっとテレビを見ない生活を送っているので、いつのことか記憶が定かではありませんが、まだプロ野球のナイター中継をしていたころ。実況を担当するアナウンサーの、解説者とのやり取りに不愉快な…

守る

“ジウ”シリーズに登場したテログループ「新世界秩序」。その残滓は、同じ物語世界を共有する後続の作品において生き続けています。あるテログループが、政治家や官僚、巨大企業のトップ、マスコミ関係者など社会的に枢要な立場にある人々と繋がっていたら、…

まるごと描く

船戸与一は、「満州をまるごと描く」をコンセプトに“満州国演義”シリーズを書きました。人類史をまるごと描くユバル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』を読んでいて、ずっと試されていると感じていました。この本は、読み手の内的蓄積に呼応します。何を見…

自制

人類史についての本を読むとき、扱われる事象は万年単位で語られます。西暦が現在2017年。それを何回繰り返すのかと想像すると、そのスケールの大きさに目眩を覚えます。刺激は、より刺激的になることでしか刺激たり得ません。同じように、進歩という名の変…

UWF再び

“あの”柳澤健がUWFについて書くと聞いて、多くの人たちは「ついにUWF論の決定版が出る」と胸を躍らせたのではないでしょうか。斯く言うわたしも、その一人です。連載中から賛否両論、思い入れがある人ほど意見を表明しますので、否の方が多かったかもしれま…

彷徨う

チャートに従って歩む正しい人生などありません。その選択の結果を自らに引き受けて臨む人生において、正しいも間違っているもありません。四十にして惑わず。嘘です。迷って結構、惑って結構。自分に何が出来るのかも、自分が何をしたいのかもわからない。…

永続敗戦

衣食足りて礼節を知る。本当でしょうか。諸々の条件が重なって経済が急激に成長している間は、不都合なことがあっても、そのマイナスをさら大きなプラスが覆い隠してくれます。今日より明日が良い日になるなら、今年より来年の方が豊かになれるなら、大概の…

数年前から、庭の一画で野菜作りをしています。土で手を汚しながら育てた野菜を食するのは、凝った料理を作らずとも立派なエンターテインメントです。土の中(あるいは上)で育った野菜を自らの手で収穫して食べると、それらが体内で消化吸収されて血肉にな…

『プレイバック』

レイモンド・チャンドラーは、従来の推理小説(探偵小説)を非現実的なパズルと評し、リアリズムを前面に立ててフィリップ・マーロウを主人公とした一連の作品を書きました。もちろんミステリーですから、事件が起き、それを解決するプロセスが物語として描…

化けただけでなく

大沢在昌が『新宿鮫』で「化けた」と評されたように、月村了衛は“機龍警察”シリーズの第二作『自爆条項』で、小説家として大きく飛躍したというのが、初めて読んだときの感想でした。第一作の『機龍警察』が大幅に加筆訂正されて「完全版」としてリニューア…