化けただけでなく - rascal2009のブログ

大沢在昌が『新宿鮫』で「化けた」と評されたように、月村了衛は“機龍警察”シリーズの第二作『自爆条項』で、小説家として大きく飛躍したというのが、初めて読んだときの感想でした。

第一作の『機龍警察』が大幅に加筆訂正されて「完全版」としてリニューアルされたときも、『自爆条項』で作品の完成度が上がってしまったので、それに合わせるためと理解しました。

その『自爆条項』が同様に加筆訂正されて「完全版」として装いも新たに世に出ると知ったときは驚きました。あれだけの傑作のどこに不満があるのだろうと。

あらためて読んで、やはり大満足でした。警察小説として、国際謀略小説として、活劇小説として、すべてが高いレベルで噛み合い、互いに作用し合って、一本の作品として素晴らしいものに仕上がっています。

このシリーズで扱われる警視庁特捜部は、セクショナリズムによる弊害を排して機能的な捜査を行うべく作られた部署で、捜査員は警察組織を横断して一本釣りで選抜されています。そのため、警察組織に従来からある部署に所属する警察官たちから裏切り者と謗られています。

その状況下で自分たちの捜査を如何に進めていくか。そこで手腕を発揮するのが部長の沖津旬一郎です。強面な態度で意を通すのでもなく、より上位の組織の威光を利用して相手を黙らせるのでもなく、巧みな交渉術によって理と利を説き、相手の言葉の裏を読み、権利や情報といった欲しいモノを手に入れます。

これは大人のゲームです。つまり、このシリーズは大人の読み物でもあるのです。