負ける読書

伊丹十三の『日本世間噺大系』を読みました。多方面で活躍した人で、人によって捉え方が違うでしょうが、わたしにとっては映画監督です。抱くイメージはダンディズム。ずっと興味がありましたが、新刊書店はおろか古本屋で見かけることも少なく、手に取る機会がありませんでした。それが、昨年12月の東京小旅行で古本屋巡りをして出合ったのも何かの縁。そのときの空気を思い出しながらの読書でした。

日本語には話し言葉と書き言葉があります。世にあるインタビュー記事や対談も、後から手を加えられ結構を整えたものです。だから、あんなふうに理路整然として読みやすいのです。その語感の違いを意識したエッセイ、対談、座談、インタビュー(という体裁の諸作品)。読みにくいどころか、その肉感的な読み心地にドキドキさせられます。

この一冊の魅力を語るに際して、自分の力不足を痛感しています。何をどう言ったところで満足出来ず、それはつまり、わたしは著者に負けたということです。

その敗北感が嬉しい。

日本世間噺大系 (新潮文庫)

日本世間噺大系 (新潮文庫)