『マルドゥック・アノニマス4』

冲方丁の『マルドゥック・アノニマス4』を読みました。第三巻の最後、ついに『マルドゥック・スクランブル』のヒロイン、バロットが捕らわれたウフコックの前に現れたところから物語は始まります。

バロットとウフコックは、『マルドゥック・スクランブル』の物語を経て互いを魂の半身のように思う間柄になっています。その二人が『マルドゥック・アノニマス』において交わらなかったのは、バロットが“普通の人”の幸せを手に入れることが出来るよう、互いに了解して別々の人生、生活を送っていたからです。

その二人が再会し、共に戦うとき、お互いに相手の判断や行動に対して何故という疑問を持ちません。それほどまでに理解し合い、信頼し合っているのです。

バロットは敵と対峙するにあたって、こうであってほしいという願望も、こうであるはずという希望的観測も持ちません。あるがままをフラットに受け入れ対応します。読んでいて『老子』を思い出しました。ああ、老荘思想はこのように活きることもあるのかと。

この巻は、バロットとウフコックの脱出行のパートと、バロットがウフコックが捕らわれている場所を突き止めるべく調査するパートが交互に配置されています。この構造が素晴らしい。読者は『マルドゥック・スクランブル』で二人の絆の強さは承知していますが、その調査行が間にあることによって、脱出行(における二人)の戦いが、より強く胸に迫って来ます。

“マルドゥック”シリーズはやはりバロットとウフコックの物語です。この第四巻はバロットの成長を描いていて、その筆の疾り具合に作家の書く喜びが溢れています。