共感

冲方丁の『マルドゥック・アノニマス』は、山田風太郎忍法帖ものの系譜に連なる作品です。エンハンサーと呼ばれる、特殊な(異様な)能力を持つ者たちの戦いが描かれます。

第一巻は、たくさんのキャラクターの紹介も含めて個別の対戦(対決ではありません)が数多く行われました。

第二巻では、彼ら彼女らが策を弄して、都市に巣食う犯罪組織の間で抗争を発生させます。

この物語には、グローバリゼーションの名のもとに、人間の心すら支配下に置く拝金主義思想への異議申し立てがあります。舞台となる都市は、現実の現在の日本も含む、世界中の国々の縮図です。

しかし、その現状を覆そうと企てる、裏の主人公ともいうべき男の“能力”が、特殊な針を相手に差すことで自分との共感を持たせるというのが、いやらしくて不快です。

その男に共感した相手は、それを他人から強制されたと疑うこともありません。だって、自分の内面から出る想いとして“共感”したのですから。

そして、その男の目的は、すべてを均一化(イコライズ)すること。

自分以外の他者の人格、人間性の否定。この相似は作者の計算でしょう。

そこにある小さな差異が、今後どのように大きくなって世界を変えていくのか。興味津々です。