『マルドゥック・ヴェロシティ』

科学技術によって作られたネズミのウフコックは、自らを“道具存在”と位置付け、“有用性”を追求します。それは、他人に必要とされること、自分以外の他者を幸せにすること。

その相棒(バディ)は、重力を操る能力を持つディムズデイル・ボイルド。睡眠を摂る必要のない、眠らない男。

都市という、人間の欲望が際限なく増殖する魔界で、彼らと仲間たちは自らの存在意義を示すために戦います。敵は同じ異能の者たち。そして、血の呪縛に心を蝕まれた黒幕。

どれほど科学が発達しようと、社会システムが確立されようと、人間は母親の胎内に帰りたがるものなのでしょうか。

そこは無条件に受け入れてもらえる、自らの“有用性”を追求する必要のない場所です。

そこで繰り広げられる血塗れの右往左往が都市の在り様、行く末を決める階層社会。その歪みと混沌が究極に達したとき、「冷静さでは事態を解決できない」と悟ったボイルドは、「虚無によって事態を制圧すること」を選択します。しかし、それは“有用性”を求めるウフコックを裏切ることでもあります。

そして、物語は『マルドゥック・スクランブル』へと続きます。

親とは何か。子供とは何か。そして、血とは何か。

それすらも包含して、自分とは何か。自我とは何か。